王妃の日記 | ナノ


 ◇外伝T:湖に雪は舞い散って−10/12−
窓の外の湖には静かに雪が降り積もり、一面が白銀に覆われている。
今まで何度も見てきたこの景色。
でももう、これが最期。

湖白の容体は目に見えて悪くなり、突然の飢えに襲われることも頻繁になった。
今も私の目の前で、苦しそうに顔を歪めている。

「湖白、つらいの……?」

真っ青な顔、荒い呼吸、血色の瞳が私を見つめた。

「……湖雪」

掠れた声に微笑んだ。
すでに準備は整えてある。
血の匂いが外に漏れない術式をこの部屋に掛けて、袖の中には湖白に貰った短剣を忍ばせた。

「湖白、私の血を飲んで……」

「……っ、やめろ!今そんなことしたら……!」

――歯止めが利かなくなる

「ええ、わかってて言っているの。それが私の望みだから」

「……何を…考えてる?」

私たち吸血鬼の力の源はこの身に流れる血。そしてその血が凝縮する心臓。
心臓の機能を停止させ、血をすべて失ったら、不死身のこの身体も結晶化して砕け散る。
反対に始祖一人分の血を取り込んだ吸血鬼は、圧倒的にその力を増すだろう。
湖白と私は双子の兄妹。きっと誰よりも同調できる。

私はにっこりと微笑んで湖白に近づいた。

「来るな…、湖雪!」

振り払おうとする湖白に構わず、抱き付いてキスをする。
これが最期の抱擁。
これが最期のキス。

そして私は隠し持っていた短剣で湖白を刺した。

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