王妃の日記 | ナノ


 ◇外伝T:湖に雪は舞い散って−7/12−
翌日の舞踏会、私はホールの中心で湖白と踊った。
お母様に選んでもらった銀のドレス、髪に挿した紅い薔薇。
白の夜会服に身を包んだ湖白の胸元には、同じ色の薔薇を添えた。

「湖白、体調は大丈夫?辛いなら…」

最近、飢える感覚が短くなっている湖白。
踊りながら、さりげなく私の血を飲むように誘うと湖白は首を横に振った。

「俺より湖雪こそ平気か?このところいつも貰ってばかりだ」

「私は平気よ。気にしないで」

ねえ、私のことなんて気にしないで。
そんな真っ青な顔で嘘なんてつかないでよ。
あなたが他の誰かに牙を穿つくらいなら――あなたが最も欲する血を求めるくらいなら――、私ごと喰らってくれたってかまわないのに。

だけど湖白はいつものように薄く笑ったままだった。
完全に受け入れてはくれない。
だけどその代わり拒むこともない。
ねえ、あなたのその優しさがどれだけ残酷かわかってる?
でもその残酷な優しさに縋りつかないと、私は息すら出来ないの。

鮮やかに廻る世界に反して、私の心は鈍色に沈んでいく。
そして曲が終わりを告げた。

「……少し、風に当たってくるわ」

込み上げてくる涙を押し止めて俯いた。
湖白はそんな私に気付きもせずに、いつものように頬に口付けた。

「じゃあまたあとで」

「ええ…」

涙が零れないように素早くホールを出た。
私はちゃんと湖白に笑えてたかしら。
お母様のように笑えてたかしら。

ホールから漏れる淡い光が中庭の芝生の上にきらめく。
そっ吐いた溜息は夜の闇に呑み込まれていった。

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