王妃の日記 | ナノ


 ◇外伝T:湖に雪は舞い散って−3/12−
お父様とお母様の寝室から見える、雪が降り積もる湖。
その光景は別世界のように美しかった。

「すごいのね、ぜーんぶまっしろ。おそらも、みずうみも、もりも、ぜーんぶまっしろよ。とってもきれい」

『ええ本当。綺麗ね。……あなたたちはこんな日に生まれたのよ』

遠い記憶を懐かしむように目を細めたお母様は、私とおにいさまを見つめながら言った。
その言葉が嬉しかった。おにいさまと一緒に生まれてきたということが。
今この時が幸せだった。おにいさまが私の隣にいるということが。

私だけのおにいさま。
私だけの王子さま。
でも隣を見れば、おにいさまは切なげな瞳でお母様を見ていた。

いつだってそう。
いつだってそう。
彼の瞳に映るのはお母様だけ。
……お母様だけ。

だから、お母様のようになりたいと思った。
お母様のように美しく、優しく、気品にあふれた女性になれば、きっとおにいさまの瞳には私が映るようになると信じていた。
だから努力したの。
お母様のように髪を伸ばし、お母様と同じ本を読み、お母様の仕草を真似て。
お母様のように、お母様のような貴婦人になるのだと。
そしてゆくゆくはお母様のようなお妃さまになるのだと。
そして王様になったおにいさまの隣に並ぶのだと。
それだけを目標に。

でもおにいさまの瞳は、十年経っても百年経ってもお母様に向けられたままだった。

背はぴたりとお母様と同じ高さになり、髪はお母様と同じ長さに伸びて。
周りの者やお父様さえも私とお母様を双子のようだと言うくらい、私はお母様そっくりになった。
だけど、おにいさまはまだ私を見てはくれなかった。
常にお父様の隣にいるお母様を、熱を帯びた切なげな瞳で見つめ続けていた。
おにいさまの眼差しにお母様は気付いておらず、そしておにいさまは私の視線に応えてはくれなかった。

どうしても、どうにかして、どんなことをしてでも、
その瞳を私に向けたかった。

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