王妃の日記 | ナノ


 ◇外伝T:湖に雪は舞い散って−2/12−
あれは遠い秋のこと。
私がまだ無垢な少女だった頃のこと。

『ある春の日、若き王様が森で狩りをしていると、白木蓮の精のような美しい少女と出逢いました――――』

『初夏のさわやかな風の中、王子様と王女様は湖の対岸の東屋で午後を過ごしていました。そこに訪れた可愛らしいリスを王女様は追いかけます――――』

『それは王女の十四歳の誕生日。その夜、お城では盛大なパーティーが開かれました。しかし恋人の姿がどこにも見えません――――』

お母様が寝る前に話してくれる「人間だった頃の話」は、私にとってのお伽話だった。
タナトスに滅ぼされかける前の、平和で幸せな世界のお話。
お父様とお母様の出会いや恋人時代のお話、お祖父様とお祖母様の大恋愛のエピソード。
お母様やお祖母様が、お父様やお祖父様と素敵な恋をしたように、私にもいつか、私だけの王子さまが現れてくれると幼心に信じてた。

そして現れたの。
私だけの銀の王子様が。


開け放たれた城の扉の向こうで、黄昏の光に照らされた銀の髪がさらりと揺れた。
それがあまりにも綺麗で、思わず見惚れたのを憶えてる。
私と同じ、銀の髪の青年に。

――やっと出逢えたと、思った。

でもあなたは

『……こ…はく……?』

お母様に名前を呼ばれたその瞬間から
ただただずっと、お母様だけを見つめている。

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