◇第四十一罪:追憶V―タナトス―−7/9−
しかしそこで異変に気付いた。湖雪の目が、赤い。
『…枢!湖雪の目が…!……貴方もだわ!!目が、目が赤く光ってる…!』
「君もだよ、白亜」
異変はそれだけではなかった。
今は夜。それも深夜。
だって、湖の向こうの森で梟が三羽鳴いてるから。
…なぜ?なぜ梟の鳴き声が聞こえるの?なぜ三羽だとわかるの?
なぜこんなに暗いのに枢と湖雪の瞳が赤いとわかるの?
そして、あたりに漂う、この香り―――。
花のように芳しく、蜜のように甘いこの香りは、一体何…?
「梟が三羽、鳴いてるね。……君にも聞こえる?」
『…枢も…わかるの?』
「感覚がすごく敏感になっているらしい。月明かりもないのに君の顔がよく見える」
『私も同じよ。それから…喉がすごく渇いているの』
「君も…?」
『枢もなの?……とりあえず、水を飲みに行きましょう。外の様子も見たいわ』
「そうだね…」
私たちは怯えていた。まだ幼い湖雪までも。
何か、私たちの身にとんでもないことが起きているのだと、体中の細胞が知っていた。
階段を下りるごとに、"香り"はその濃さを増した。
喉の渇きが強くなった。
自然と私たちの足はその香りの元へと向かった。
辿り着いたのは大広間。
そこで私たちが見たもの。
それは―――
人、人、人、人、人
赤、赤、赤、赤、赤
血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
その瞬間、身体の中心で何かが爆発した。
―――渇き。
―――欲望。
―――本能。
もう、止められなかった。
気付けば床に横たわっている死体を抱き上げ、冷たい首筋に齧り付き、
――――血を貪っていた。
すぐ近くで枢も同じことをしているのがわかった。
湖雪は床に溜まっている血をピチャピチャと舐めていた。
手当たり次第に牙を立て、血を啜り、飲み干す。
どうしようもなく渇いていた喉が潤った。