◇第四十一罪:追憶V―タナトス―−6/9−
トクン、トクン、トクン枢の……鼓動……
……白亜、……白亜……
枢の……声……
「白亜…!」
重い瞼を開けると、そこには枢の顔があった。
『……枢……』
「白亜っ、良かった…、生きてる…」
涙混じりの枢の声。
強い腕に抱きしめられた。
………生きてる……?
ぼんやりとした思考はどんどん鮮やかになっていく。
あれほど重苦しかった身体はやけに軽く、不思議なほど視界がはっきりしていた。
ただ、喉がひどく渇いていた。
枢の肩越しに見えた窓の外は、新月の暗闇。
意識を失う前に見たのは、確か下弦の半月だった。
あれから一週間も経っているというの…?
タナトスに罹れば五日で死ぬはず。
なぜ、生きているの…?
『……枢、熱は?』
喋ると"何か"が舌に当たった。
それは鋭く尖った犬歯だった。
「僕は何ともないよ。君こそ…」
『私も何ともないの…。……湖雪は!?』
「湖雪も大丈夫そうだよ」
枢が抱き上げた湖雪は、大きな目をぱっちりと開けていて、熱も下がっているようだった。