◇第四十一罪:追憶V―タナトス―−4/9−
「今朝この城にやって来た使者によると、王都や他の町もほぼ全滅だそうだ。この国だけじゃない。タナトスは世界中に広がっている。その使者はそう告げると、そのまま息絶えたよ」『……世界は終りだわ』
「そうだね。でも、どんな時にも喜びはあるよ」
『……え?』
「君をまたこうして、抱きしめることができた」
身体を包み込む枢の腕がぎゅっと強くなった。
その言葉に、涙が止まらなかった。
久しぶりの枢の腕、枢の匂い、枢の鼓動…。
ねえ枢、絶望と幸福を一緒に感じるなんて、変かしら…?
すると枢は湖雪を抱いたままの私を抱き上げて部屋を出た。
『どこに行くの?』
「湖雪のベッドじゃ、三人一緒に寝れないだろう?」
辿り着いたのは私達の寝室だった。
数日戻っていなかっただけなのに、ひどく懐かしく感じた。
窓から見える湖は子供たちが生まれた日と同じ色合いで、あの日と少しも変わっていなかった。
白い雪に包まれた美しい湖、見渡す限りの白銀の世界。
暮れなずむ空に、下弦の月が淡く浮かんでいた。
「やっと…、やっと君と湖雪と一緒に過ごせる。…ここに湖白がいれば完璧だね」
私たちは寝台に横たわった。私が湖雪を抱き、枢が私を包んでいた。
すべての音は雪に吸い込まれ、世界は沈黙していた。
ただ、私達の声が静かに穏やかに寝室に響いた。
『あの子を逃がしたのは間違いだったかしら…?どうせタナトスに罹るなら、一緒に……』
「君は間違っていないよ、白亜。ここに残せば、湖白は間違いなく感染していた。君はあの子にこの国の希望を託したんだ」
『この国の…希望…?』
「そうだよ…。あの子が生き延びてくれれば玖蘭王家は絶えず、生き残ったわずかな国民とで、いつかこの国を再興してくれる…」
『…生きていて…くれるかしら…』
「あの子はきっと大丈夫だよ…」
その言葉に安堵して、ただ眠るように目を瞑った。
トクン、トクン、トクン
枢の鼓動が耳に心地よい。
トクン、トクン、トクン
その音が、まるで子守唄のようで…。
トクン、トクン、トクン
―――そしてすべてが静寂に包まれた。