◇第四十一罪:追憶V―タナトス―−3/9−
―――白亜…愛しい…声…
―――白亜…
貴方の…声…
―――白亜…、白亜… 、白亜…
やめて…
揺さぶらないで…
せめて夢の中だけでも、この声を聞いていたいの…
「白亜」
目を開けると、そこには枢の顔があった。
『……かなめ?』
「そうだよ」
ぼやけた視界に貴方の笑顔が映った。
熱で朦朧とした思考の片隅で、これは夢の続きではないかと思った。
重い腕を持ち上げてゆっくりとその頬に触れる。
―――あたたかい。
枢がいる。
目の前に。
もう二度と逢えないと思っていた貴方が…。
これは…夢じゃない。
その途端、一気に思考が冴えた。
『枢…!ここに来てはいけないって…っごほっ、……ごほっごほっ』
急に起き上がって喋ったことで咽返った。
口を押さえた手からは鮮血が溢れ出た。
「白亜っ!」
『…枢、私はいいから、早く、出て行って……』
「いいんだよ、もういいんだ……」
そう言って、枢は私を抱きしめた。
その体は、温かい。
『どういう…意味?』
ざわりと嫌な予感がした。
そういえばさっきも、触れた枢の頬は温かかった。
何故?なぜ私は発熱しているのに、枢の体が温かく感じるの…?
そんなの、何故だなんて…、理由は一つしかない。
枢は淡々と言った。
「僕も発病した。僕だけじゃない。君の母上も、僕の両親も姉上も、大臣も侍女も皆…。今、この城で健康な人間は一人もいない」
『そんな…』
神様…
『絶望』というものは、こんなにも重く、残酷なものなのでしょうか―――。