王妃の日記 | ナノ


 ◇第四十罪:追憶U―クロト―−11/12−
『湖雪!!』

子供部屋へ駆けつけると、湖雪は赤い顔でぐったりとしていた。
寝台から湖雪を抱きあげる。
頭は不思議と冷静で、覚悟を決めるのにひとときもかからなかった。

『私がこの子を看ます』

「王妃様、ですが…!」

『命令です。よくお聞きなさい。あなたはこの部屋の次の間に籠りなさい。あなたもすでに感染している恐れがあります。あなたにはそこで、陛下と私の連絡係をしてもらいます。よろしいですね』

「…はい、王妃様」

乳母は目に涙をためたまま、それでもしっかりと頷いた。

『……酷なことを言ってごめんなさい。あなたにも…子供がいるのに……』

「いいえ、白亜様。私は白亜様と湖雪様に仕えることを誇りに思いますわ。それに、私がタナトスを持ち帰り、我が子に感染させてしまうよりずっといいですもの」

うら若い乳母はにこりと笑ってそう言った。
強い女性だと思った。
私などよりずっと。
私ばかりが泣いてなどいられないと涙を拭った。

『では早速、陛下にこのことを手紙で伝えてください。そして、王子を一刻も早くこの城から逃がすようにと。荷物は私の部屋に準備してあります。手紙は隣室の小窓から近くに控えている兵か侍従に渡しなさい』

「はい」

『そして陛下には、この部屋からもっとも離れた北の塔に移動するようにと。陛下の部屋からここまではあまりに近すぎます。そしてこの階下の部屋部屋にタナトス患者を集めるように。感染者は即座に増えるでしょう。部屋が足らなければ大広間を開放するように伝えてください』

「わかりました」

その日の夕暮れ、信頼できる八名の家臣に守られて湖白は城を出て行った。
私はその様子を湖雪の部屋の窓から見守ることしか出来なかった。
西に沈む太陽に向かっていく八頭の馬。
遠目では、乳母に抱かれた布のかたまりが湖白なのだということがやっとわかるほどだった。

『……湖…白……』

窓辺で泣き崩れた。
最後に抱きしめることさえ叶わなかった…。

306

/
[ ⇒main]
page:




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -