◇第四十罪:追憶U―クロト―−10/12−
でも、迷ってる暇などなかったのだ。そのわずか五日後、恐れていた事態が起きた。
「陛下!王妃様!大変です!この王城でもタナトスの感染者が出ました!」
政務室に駆け込んできた従者の声に、部屋の中の空気が凍りついた。
「その者とその近親の者をすぐに隔離するんだ」
枢の言葉に凍っていた場が動き出した。
万全を期していたこの王城にまでタナトスは忍び込んできた。
もう猶予はない。
とうとう、来てしまった。決心をする時が。
私は意を決して枢に向き直った。
『……枢。今日にでも、湖白と湖雪をこの国から逃がして』
「白亜……」
『もっと前からこうするべきだったわ。お願い……あの子たちだけでも安全な場所へ』
この日まで延ばしてしまったのは、私の愚かな親心故の迷い。
「よく言ってくれたね。すぐに手配しよう」
『ええ…』
愛しい我が子との別れに耐えきれず顔を塞ぐ私を、枢はそっと抱き締めた。
その時だった。
「王妃様!王女様が、湖雪様が発熱なさいました!」
突如、湖雪の乳母が駆け込んできた。
「白亜、駄目だ!」
その言葉を聞いた瞬間、枢の制止も振り切って私は走り出した。