王妃の日記 | ナノ


 ◇第四十罪:追憶U―クロト―−9/12−
お母様の言葉を枢に話せば賛成だと言われた。
しかし、君次第だよ、とも。
私の一存で我が子の未来が、玖蘭家の、この国の未来が決まる…。

湖雪の部屋に行くと、ちょうどお昼寝から起きたばかりの湖雪は機嫌良く笑っていた。

「まあ、王妃様、このお時間にいらっしゃるなんて珍しい。湖雪様、お母様ですよ」

「あーうあ…、まーっあ」

『少し、湖雪を部屋に連れていきます』

「では私がお抱きして」

『いえ、大丈夫。あなたも疲れているでしょう、しばらく休んで』

不思議そうな表情の乳母を残して私室へと向かった。
そこにはすでに同じように連れてきた湖白がソファの上でにこにこと笑っていた。
そのソファに湖雪を下ろす。

床には最低限の荷物を詰めた袋が四つほど。
そして机の上の箱の中には、玖蘭の紋章が刻まれた短剣とペンダント。
それらを湖白と湖雪それぞれに持たせれば、この先、この子たちの何よりの身分の証となるだろう。

「まぁーっま!」

すると、湖雪が覚えたばかりの言葉を呼びながら私に向かって小さな手をいっぱいに伸ばしてきた。
思わず抱き上げると、胸に擦り寄って甘えてくる。

「まぁー、んま?」

そして湖白があどけなく私の袖を引いた。
いつもの悪戯な瞳ではなく、私を気遣うような目で。

『湖白…、湖雪……っ』

たまらなくなって二人をぎゅっと抱きしめた。
この腕に感じる確かなぬくもり、重さ。
赤みの差したやわらかな頬、細い銀の髪。

……出来ない。
私には橙茉公爵のようにはなれない。
この子たちを手放す事など出来ない。
この愛しいぬくもりを二度とこの腕に抱けないなんて、考えただけで身も心も切り裂かれそうな心地だった。

「まーぁま」

「まぁーんま?」

泣き崩れる私を、二人が小さな手で揺すった。
それがまた愛おしくてならず、涙が止めどなく流れるばかりだった。

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