◇第四十罪:追憶U―クロト―−7/12−
「きゃあきゃあ」「あーははは!」
「嬢ちゃま、坊ちゃま、お静かになさいませ!」
控えの前に近づくと、扉の奥から子供たちの笑い声とそれをたしなめる侍女の声が聞こえた。
「こら、ばあやを困らせるなとあれほど言っただろう」
「おかあさま!」
百合姉様が部屋に入るなり、愛らしい女の子と男の子が飛んできた。
少女の亜麻色の巻き毛がふわふわと揺れる。
「ほら、服を正しなさい。この国の王様と王妃様だ。風音、挨拶の仕方は練習しただろう?」
百合姉様がそう促すと、少女は水色の瞳をいっぱいに見開き私たちを見つめた。
そして緊張した面持ちでドレスを摘まみ膝を折った。
「おうさま、おうひさま、はじめまして。とうまかざねです」
「はじめまって!」
隣の幼い黒髪の男の子はたどたどしく姉の真似をしてお辞儀した。
枢は小さな二人に目線を合わせてしゃがんだ。
「風音、颯真、遠い所よく来たね。ようこそ我が城へ」
『まあ、なんて素晴らしいご挨拶かしら。大きくなったのね…。あなたたちが今よりもずっと小さい頃に会った事があるのよ。でも憶えていないのでしょうね』
頭を撫でると、風音はくすぐったそうにはにかんだ。
その屈託のない笑顔に胸が締め付けられる。
こんな可愛い子を手離さなければならなかった公爵はどんなにお辛かったか…。
そしてこんなに小さいのにお父様とお別れしなければならなかった風音と、いつかの幼い私が重なった。
「おうひさま…?どうしてないてるの?」
『いえ…、いえ、なんでもないのよ。二人とも、この城を我が家だと思ってね。私達にも子供がいるのよ。まだ小さいのだけど、遊んであげてね』
「うん!」
あどけない笑顔。
小さな身体を思わず抱きしめた。
これから先、この国を作って行くこの子たちの未来を守りたいと思った。
その瞳から涙が零れることがないよう願った。
なんとしてでも、タナトスから生き延びなければ。