◇第四罪:守るべきモノ−3/8−
ノックをして理事長室に入った。「やぁ枢くん、君が来るような気がしていたよ。それに白亜、君も…」
「黒主理事長、錐生零をいつまで普通科においておくつもりなんです?彼にはもうすぐそこまで"その時"がせまっている」
「…白亜、君も気付いていたのかい?」
『ええ…』
私は俯いたまま、短く答えた。
「さすが、君たちは別格だよね。先祖からの血脈にただの一滴も"人間"の血が混ざっていない…。今では吸血鬼の中でも稀な血統……。……吸血鬼の中の吸血鬼――"純血種"……。白亜…君は人間になってもまだ、その力が残ってるんだね」
『私は優姫と違って吸血鬼因子が完全に眠っているわけじゃないから…。それに、残っているといっても少しだけ…。でも、こんな私にも分ってしまうくらい零の気配は吸血鬼に近付いているわ』
枢は理事長に問い詰めた。
「理事長、貴方を信頼しているのでこれまで口出しを避けてきました。ですが貴方は多少の手を打っただけで、今も普通の生徒として零を扱っている…」
メギ―――という理事長の机を抉る音とともに、枢の威圧が増した。
「貴方はご自分の平和主義の理想を零に壊させるつもりですか?」
「…しかし錐生くんは両親を吸血鬼に殺され…その血の海で彼だけが奇跡的に助かった。これ以上酷なことをできると思うかい……。白亜ならわかるだろう。この四年間、ずっとそばで彼を見て来て……」
確かに、零の心の傷はひどく深い…。
家族を吸血鬼に殺され、吸血鬼を憎み、恨み……。
そして、その忌み嫌う吸血鬼に自分が変化しつつあるという彼に、これ以上酷なことはできない…。
けれど…。
枢が零を夜間部に移すというのなら私はそれに従うしかない。
優姫を守るためならば…。