王妃の日記 | ナノ


 ◇第四罪:守るべきモノ−2/8−
『優姫、まだ終わらないの…?零はもう行っちゃったわよ』

隣にはうーんと唸りながら補習の問題に悪戦苦闘している優姫がいた。

「わかってるけど……白亜〜、この問題全然分かんないよ〜?」

涙目で訴える優姫の可愛さに私は完敗。
参考書を広げて答えに近いアドバイスを伝える。

『いい?ここはこの公式を応用して…」

その時、廊下からざわめきが聞こえてきた。

「何か騒がしいね。私見てくる!」

『優姫はダメよ、早くそのプリント終わらせなきゃ。私が行くわ。一応私も風紀委員ですから』

立ち上がろうとする優姫にそう告げて教室を出る。
増していくざわめきの原因はすぐに見つかった。
黒い群れの中で一際目立つ、純白の二つのシルエット。

『…枢、珍しいのね。貴方たちがこの時間に校舎に来るなんて』

その隣にいるのは早園瑠佳。
よく手入れされた長い髪の、いかにも貴族のお嬢様然とした美しい吸血鬼。
軽く会釈をすれば鋭い目つきで睨まれてしまった。

「ちょっと理事長に用事があってね。白亜、君にも来てほしい。瑠佳、ついて来てくれてありがとう。授業ももうすぐ始まるから帰って準備をした方がいい」

「ですが枢様…」

瑠佳はちらりと周りで騒いでいる周りの生徒達を見た。

「僕は大丈夫だよ。それに風紀委員さんもいるしね」

枢は私に目線を映す。
瑠佳は私の腕の腕章に目をやると一瞬迷った表情を浮かべたが、すぐさま「失礼します」と言ってその場を後にした。

『……零のことでしょう』

瑠佳の気配が完全に消えた後、私は前を向いたまま枢に言った。

「…ああ。あんな状態の彼をいつまでも君たちのそばに置いておけない」

確かに最近の零の気配は人間のものではなく、吸血鬼のそれだ。
凄まじい吸血衝動に耐えている零は見るからに痛々しくて……近頃は零をまともに見ることができなくなっていた。
知らないふりを装っても自分の心は偽れない。

『…零を、夜間部に移した方がいいと…、そう考えてるの?』

「そうだよ。彼はもうこちら側の人間だ。…そして君もだよ、白亜」

枢は立ち止り、私の目を真っ直ぐ捉えた。

『優姫を置いてはいけない。それに、私はまだ人間よ』

私も真っ直ぐに枢の目を見る。
この会話も何度目だろう。
そのたびに私は同じ答えを繰り返す。

「…わかったよ」

枢はそう呟くと、また歩を進めた。

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