◇第三罪:Bitter day−5/5−
side 白亜いつにも増して今宵の月の寮の前は女の子たちで賑やか。
優姫もはりきって、"普通科女子ゲートイン!チョコを渡せるのは何人まで!?レース"の説明を夜間部生にしている。
(誰が考えたのかしらこのイベント名…。きっと理事長ね)
零は全く興味無さそうに別の方を見ていた。
そして私は、
「「今日はいつもより絶対危ないから来ちゃだめ」来るな」
と言われて、今日も自室の窓から眺めるだけ。
私も行きたかったのに…。
心配してくれるのはわかるけど、ちょっと過剰だわ、あの二人。
それにしても、今日の枢は機嫌がいいのね。
藍堂英に微笑みながら注意するなんて…。
何かいいことでもあったのかしら。
枢を目で追っていくと、優姫に話しかけるのが見えた。
「ご苦労様、優姫、ケガしないでね」
優姫も枢にチョコを用意していたはずだけど、渡さないのかしら…。
今がタイミングなのに。
枢も期待していたでしょうにね。
その時ドッと普通科の女の子たちが突然優姫の上に崩れ込んできた。
転んだ優姫のポケットから小さな箱が落ちる。
すると零がその箱を枢の方に投げた。
零!ナイスだわ!
……そう思う反面、それを喜ばない私がいる。
こんなことを思う自分が本当に嫌。
ドロドロとした醜いモノがじっとりと心に染みわたる。
門から少し離れたところで星煉と枢の声が聞こえた。
「枢様、煩わしいでしょう、お持ちします」
「いいよ、それ食べて。僕はこれ一つでいい」
耳をふさいでも、はっきりと聞こえてくるその言葉。
中途半端に残ってる吸血鬼の能力せい。
昔に比べ劣ったといっても人間より遥かに優れているすべての感覚――。
こんなもの、いらない。
わかってた。
枢が欲しいチョコが一つだけだって。
もらいたい人が一人だけだって。
わかっていたのに。
……どうして本人の口から聞くと、こんなにもつらいのかしら。
大切な妹に嫉妬している自分が浅ましい。
できることなら心から優姫の恋を応援したいのに。
でも、どうしても、枢を誰にも渡したくないという気持ちが勝ってしまう。
枢の気持ちも、優姫の気持ちも、痛いほどよく知っているのに。
それに、枢は玖蘭の当主として優姫を選ばなければならない。
私を選んではいけない。
そんなのわかってる……わかってる…のに……。
嫉妬と自己嫌悪に押し潰されそうな私を残して、今日も太陽は西の大地へ沈んでいった。
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