◇第二十九罪:葛藤−7/8−
side 枢夜風を背景に明け放った扉の前に立つ零の姿は嫌でもあの時の彼と重なった。
白い雪がちらつく中、銀の髪が風に揺れる。
心が昔に還るには十分すぎるほどに整った舞台。
タナトスに仕組まれた運命。
「白亜はどこだ」
僕を睨みつけながら零は言った。
その瞳の浅紫に僕は違和感を覚え、そして安堵し、切なさに襲われる。
―――そう、零は彼ではない。
「いきなり…不躾だね」
「お前にわきまえる礼儀は持ち合わせていない。…白亜に聞きたいことがある。優姫の過去と…『王妃の日記』について」
「…ここでする話じゃないね。……僕の部屋に」
零はこの上なく嫌そうな顔をしながらも僕の招きに従った。
静まり返った廊下に二人分の足音が虚しく響き渡る。
自室の扉を開ければ、少し躊躇した後、零は中に入った。
「適当にその辺に」
「…白亜はどこだ」
「…さっきからそればかりだね。……でも、残念だけど白亜には会わせられないよ」
「何故だ。…白亜がそう言ったのか…?」
「いや…。そうだね…、あえて言うなら……僕が、会わせたくないから」
いくら贖罪をと願ってもそれは所詮、自己満足でしかない。
僕の罪は僕しか知らない。
君を想うが故に嫉妬に苛まれてしまったが結果、知らぬ間に起きてしまった悲劇。
知らぬ間に犯してしまった罪。
どう足掻いたって取り戻せない、失われてしまったもの。
悔いて悔いて悔いて、いつか贖おうと心に決め…。
けれども僕は、どうしたって駄目なんだ。
嫉妬の煉獄からは抜け出せない。
今だってほら、僕の言葉で彼の顔が歪むのを楽しげに見ている自分がいる。