◇第二十九罪:葛藤−3/8−
side 零パタン、と理事長室の扉を閉めた。
理事長から見せられた壱縷の編入願い届け。
何故今更あいつが…。
けれど俺がそれを拒否する理由もない。
仄明るい月明かりの中、夜の校舎を歩いた。
考えごとと、常に纏わりつくような飢えを紛らわせるにはこの暗さと静けさがちょうどいい。
しばらく歩いていると廊下に優姫が座り込んでいた。
「優姫?どうした…?」
「聞け…なかった…」
優姫はその手の中にある何かをぎゅっと握りしめた。
「白亜に…聞こうとしたの。私の過去を知ってるのかって…。……でも、聞けなかった。
黙ってたら、おみやげ渡されて…。『十年に一度しか咲かない薔薇なの』って…。白亜、いつもみたいに優しく笑って…。……何にも言えなかったよ…」
「優姫…」
今にも泣き出しそうな優姫は、俯いたままその手の中の薔薇を握り締めた。
「あせらなくていいから、そのうち聞けるタイミングが来ると思う。な…?」
そう言いながらも、俺は心を決めていた。
優姫が聞けないのなら俺が聞こうと思った。
何にせよ、白亜と話がしたかった。
まり亜が言っていた"隠された真実"。
白亜のことが書いてあるという『王妃の日記』。
そして優姫の過去。
白亜…、お前は何を知っているんだ…?