王妃の日記 | ナノ


 ◇第二十七罪:霧中の探究者−9/10−
side 零

忌々しいほどに懐かしい街。
俺の中のハンターの血が馴染む。
久しぶりに協会の本部に入ると、煩わしい視線が降り注いできた。
相変わらず女のような雰囲気を纏った胡散臭い協会長の案内で薄暗い廊下を進む。

「さあ諸君、記録保管室にようこそ。ここには吸血鬼と吸血鬼ハンターの膨大な戦いの歴史が眠っている」

天井高く積み上げられた本と資料。
入口に立ったまま、優姫は固い表情をしていた。

「……やめるか?」

「…やめない。私は記憶を取り戻した方がいいと思う…。ただちょっと緊張して…」

らしくない強張った頬をぺんぺんと軽く叩いて、先に中に踏み込む。
優姫のことは俺よりもここに詳しい理事長には任せ、『王妃の日記』のある棚へと向かった。
巨大な本棚の上から下までをすべて埋め尽くすのは同じ背表紙。

「……多すぎだろ」

「おや、零。お前が『王妃の日記』に興味があったなんてねぇ」

背後から現れた協会長は何が愉快なのか薄い唇でにんまりと弧を描いていた。
この男に聞くのは気が進まないが仕方ない。
協会の中では一番詳しいだろう。

「…これ全てが『王妃の日記』…なんですか」

「ここにあるのは全て『王妃の日記』だが、ここにあるのが『王妃の日記』の全てではない」

「つまり、隠された部分が存在している、と…?」

「いやいやいや、『日記』はあまりに膨大でね、その全ては元老院ですら把握しきれていないと聞く。ここにあるのは写本の一部と数種類の抄本、それからいくつかの総集編と研究者による資料などだよ」

まり亜は、真実は隠されてきたと言っていた。
こいつがそれを知らないだけなのか、それとも嘘をついているのか…。
何にせよこの量の本を読むのは無理があると思い、とりあえずもっとも古いの時代についての写本を手に取った。

まるで母が子に読み聞かせるような、御伽噺を思わせるやわらかな文体。
そこに記されてあったのは吸血鬼の王国の話だった。

湖のほとりに建つ王城。
その城下に栄える王都。
七人の始祖吸血鬼とそこから広がった血族たち―――。

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