王妃の日記 | ナノ


 ◇第二十七罪:霧中の探究者−8/10−
「『日記』についてご説明するにも、まずは吸血鬼の歴史を知らねばなりません。
―――古の昔に人類の文明が滅びかけたことがありました。その頃に我らが始祖にあたる吸血鬼が現れたのです。そこから人種族といっさい混ざらず続いている血脈が純血種です」

先生は『王妃の日記』をぱらぱらとめくった。

「――悠久のかなた、人類の歴史が滅びかけたときに始祖吸血鬼が現れた――。吸血鬼界の創世について『日記』に記されているのはこれだけなので、それ以上の詳しいことはわかっていません」

「ねえ先生?どうしてそれは『"王妃の"日記』なの?」

「いいところに気付かれましたね、英様。この『日記』の創始者である始祖吸血鬼が玖蘭家の初代王妃様だからです。以来ずっと、『日記』は玖蘭の王妃様方の手によって受け継がれてきました。これが『"王妃"の日記』といわれる所以です」

「…じゃあつまり、玖蘭家は…」

「…吸血鬼界の王族」

「そうです暁様。その血は最も濃く、他の純血の家系とは一線を画します。…ですが、先々代のご当主が権力の集中を嫌い、君主制を廃止…。元老院に吸血鬼社会を統治させるよう変えました」

「手に余ったんだよ、きっと」

「……今でもその気にさえなれば、あの方たちにとって権力を握り軍勢を作るなど、容易いことでしょうね…」

―――おわかりですか、それが純血種の恐さなのですよ――

先生の真剣な表情と共に、その言葉は僕の脳裏に刻み込まれた。

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