◇第三罪:Bitter day−2/5−
枢が机に向かい書き物をしていると、コンコンと窓が叩かれる音がした。この気配はまぎれもなく、
「白亜…」
カーテンを開ければ思った通り、白亜が笑って手を振っている。
はぁ、とため息をつきながら、枢は窓を開け白亜を部屋の中に抱き入れた。
「君はまたこんな所から…。ついこの間もそうやって無茶をして倒れたのを忘れたのかい?」
『あの時は優姫の血の香りがしたから必死で…。ちょっと走りすぎただけよ。今日はちゃんとゆっくり歩いてきたから大丈夫」
そういう問題ではないのだが、当の本人はにこりとして気にも留めていない。
普段は淑やかなのに、お転婆なところは昔から変わっていない。
君が倒れるたびに僕の心臓が凍りつきそうになることなんて考えてもいないんだろうね、と枢は心の中で呟くが、こうして白亜が部屋を訪ねて来てくれることは単純に嬉しかった。
『はい、枢、これ…』
白亜は赤い箱を取り出し枢に渡した。
『今日は聖・ショコラトルデーだから』
「ありがとう」
そう言って枢は微笑んだが、すぐに白亜が持っている紙袋に気付いた。
「白亜、それは…?」
『あぁ、これはね…』
――コンコン
その音に白亜の言葉は遮られ、代わりに一条拓麻が返事も聞かずに入ってきた。
「枢、いくつか目を通してほしい書類が……あれ、白亜ちゃん、どうしたの?」
白亜の姿を見つけると、拓麻はいつもの数倍の輝きを放つ笑顔で駆け寄ってきた。
拓麻は白亜が枢の妹であることを知っている夜間部で唯一の人物であり、幼いころ何度か面識もあるため白亜とは仲が良い。
『拓麻、ちょうどいいところに来たわ。はい、これ。聖・ショコラトルデーのチョコレート。拓麻と夜間部の皆さんに』
白亜は持っていた紙袋を手渡した。
「うわ〜、ありがとう、白亜ちゃん!白亜ちゃんのお菓子美味しいんだよね」
『どういたしまして』
白亜はふわりと微笑んだ。
その微笑みに見惚れていた拓麻だったが、不機嫌な枢のオーラに気付き、ハッと我に返った。