◇第二十七罪:霧中の探究者−5/10−
車から降りた途端、肌を撫でる温かな風。すでに冬が訪れた学園とはまるで違う気候に白亜様は驚いているようだった。
『いいところね、春みたいな暖かさ』
「あとで散歩しようか。ここの薔薇園は見事だよ」
枢様は穏やかに微笑んで、白亜様の肩を抱きながら屋敷に入った。
「せっかくだから皆でザコ寝したいなあ」
「拓麻様っ!そんなことしてお祖母様に知られたら、私殺されますっ!」
「ねー、莉磨は枕投げとか興味ない?」
「…なげてどうするんですか…?」
『きっと飛距離を競うのよ、莉磨』
「ぶつけあっこするんだよ白亜ちゃん。やってみる?」
「白亜様っ!そんなことをされてはダメです!!」
荷物を運び終え、ひとまず落ち着いたリビングでは一条がまたアホなことを言っていた。
……一条拓麻。
元老院を束ねる貴族界の怪物"一翁"の孫……。
本人は本当にあの一翁と血が繋がっているのかと思うほど陽気で明るいけど。
「そう、一条のお祖父様がうっとおしいから、枢様は家出少年同然に…」
「悪いね藍堂…。いつもいつも宿なしの僕の面倒をみさせて」
ポロリと零した僕の言葉に反応したのは、突然部屋に入って来た枢様だった。
「かかかかかなめさまっっ!!!」
「枢っ枢っ!藍堂ってば酷いんだよ!お祖父様のことは僕にはどうしようもないことなのにイヤミばっかり言うんだっ」
「泊まらせてもらってる立場なんだから…」
一条は泣きながら(もちろん嘘泣きだ)枢様に抱きついた。
枢様もそんな一条の頭を撫でながら悲しげな瞳で僕を見つめる。
「うっ…うちより金持ちどもが何言ってるんですかーーー!!!」
叫んだ僕は悪くない。