◇第二十七罪:霧中の探究者−4/10−
side 英『ねえ枢、それ美味しい?』
「君が食べさせてくれたらもっと美味しいけどね」
『仕様がないわね。はい、あーん』
「うん、美味しい」
『じゃあ私にも一口ちょうだい』
「もちろん。はい白亜、あーん」
『……ん、ほんと、美味しい』
「白亜、ソースがついてるよ」
『え?どこ?』
「ここ」
枢様はさも自然に白亜様の口元についたソースをぺろりと舐めた。
車両の一つを貸し切って本当によかったと思う。
人間たちがいたら卒倒する者が絶えなかっただろう。
「白亜様、車内販売を見たのが初めてだったなんて…」
僕の前、暁の隣に座った瑠佳が言った。
白亜様はこの地下高速鉄道に乗るのも初体験だったらしく、珍しくはしゃいではあれもこれもと異常なまでの食べ物を買い込んだ。
僕たち全員にも配ってくださったが、それでも多すぎる量だ。
「白亜ちゃんはほとんど外出したことがないからねー」
通路を挟んだ隣の席に座る一条が言った。
その隣の遠矢は、白亜様からもらったお菓子をもくもくと食べている。
「だから今回、藍堂の別荘に行くのをすごく楽しみにしていたよ、白亜ちゃん」
一条の言葉に、嬉しくてつい顔がにやけたのは内緒だ。
「藍堂さん、顔気持ち悪い」
「うるさいぞ遠矢っ!」
…全然内緒に出来ていなかった。