王妃の日記 | ナノ


 ◇第二十七罪:霧中の探究者−2/10−
side 優姫

ちゃぷん、とバスタブに張られたお湯につかる。
白い蒸気が鏡を曇らせた。
手で拭いても瞬く間に再び曇っていく鏡は
―――私に似ている。

空っぽの過去に苛まれるたびに何度も何度も思い出そうとしては、たちまち深い霧に包まれてしまう記憶。
私の中から迫りくる闇が、恐くてどうしようもなかった夜。
そんな時いつも私を救ってくれたのは、温かで優しい白亜の手だった。

――『無理に思い出そうとしなくていいわ。優姫は優姫なんだから』――

そう言って、私が眠りにつくまでゆっくりと頭を撫でてくれた白亜。
大好きで、大切で
何よりも、誰よりも、私のそばにいてくれた白亜。
そんな白亜を

「…疑いたくないよ」

思わず零れた想いは浴室に反響した。
――だったら、思い出さなきゃ。
目を閉じて記憶を辿る。

吸血鬼を倒す美しい少年
私を背に庇う一人の少女
襲いかかってくる男の牙
真っ白な雪

―――その前は?
………わからない

どんなに思い出そうとしても、その先はいつだって濃い霧の中……。

「優姫…?」

突然の声にハッとして目を開けた。
脱衣所に繋がるドアには零の影。

「なかなか出て来ないから理事長が心配してる。大丈夫か…?」

のぼせてるんじゃないかって 見に来てくれたんだろう。
返事をしてバスタブから上がろうとすれば、一気に視界を支配する赤。
お湯が、バスタブいっぱいの血に変わっていた。

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