王妃の日記 | ナノ


 ◇第二十一罪:銀の残影−3/7−
次に目を開けると、そこには深紅の瞳があった。
枢がじっと私を見つめている。

『…いま何時?』

「もうすぐ日が暮れるよ」

『…まさか、ずっとそうして見ていたの?』

「もちろん」

『いじわるね』

「至福の時間だったよ」

頬を包む枢の手に、自分のそれをそっと重ねた。

この十年、本当の兄だと思っていた。
だけどやっぱり貴方に恋をした。
貴方を恋うる気持ちは、焼き印のようにこの心に刻み込まれていて。
記憶を失っても変わることがないほどに。

「白亜…」

『なに?』

「理事長がもうすぐここを訪ねてくるんだ。少しだけ行ってくるよ」

そう言って軽くキスして立ち去ろうとする枢を引き留めた。

『私も、行くわ』

「その身体じゃまだ無理だよ」

枢の言うとおり、まだ自力で立ち上がることもできない。
でも、ちゃんと自分で会いたかった。

『お願い』

「…仕方ないね」

枢は微笑みながら、どこか嬉しそうな溜息をついて私を抱き上げた。

「歩けるようになるまでは当分これだよ」

『…じゃあ、しばらく歩けなくていいわ』

「くす、僕は構わないよ」

階下に降りて応接室に入り、カウチに下ろされて渡されたショールを羽織る。
しばらくすると扉がノックされた。

「どうぞ」

「枢くん、…白亜」

『理事長…』

私を見て、ひどく安心したような眼差し。
どれほど心配をかけてしまったのかと胸が痛む。

「白亜、もう体は大丈夫なのかい?」

『ええ。心配を掛けてごめんなさい…』

「君が無事ならいいんだよ。そうか…。吸血鬼に、戻ったんだね…」

理事長は少しだけ淋しそうに笑った。

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