◇第二十罪:忘却の蝶は追憶の羽を取り戻す−3/4−
side 枢静かに寝息を立て始めた白亜に、やっと安堵することが出来た。
それでも心の震えは止まらない。
もう少しで君を本当に失ってしまうところだった。
もし間に合わなかったら、と考えただけでもぞっとする。
君がいない世界なんて虚無の獄。
僕にとっては何の意味も持ち得ない。
記憶を取り戻した白亜は、再び終わりを願うと思っていた。
そしたら今度は本当に、君と終焉を迎えるつもりだった。
だけど君はよかったと、記憶が戻ってよかったと、そう、言ってくれた。
その言葉で僕はやっと決心が出来たんだ。
この世界で君と共に生きてゆこうと。
僕の腕の中で寝息を立てる白亜。
先ほど開かれた瞳は僕と同じ深紅に戻っていた。
その絹のような髪を指で掬って、そっと口付ける。
鼻腔に広がるその香りに、君が本当に戻ってきたんだという実感がやっと胸に沁みわたる。
愛しい君をこの胸に、僕も静かに眠りに落ちた。
ねえ、白亜
今も昔も、僕の世界のすべては君なんだ。
失ってしまったものは大きく、決して二度とは戻らない。
けれど今はただ、君をこの腕に抱いているだけで幸せで。
ただただ満たされて。
一度立ち止ってしまった道を、再び歩み出そう。
君がそばに居るなら、僕はそれだけでいいんだ。