◇第二十罪:忘却の蝶は追憶の羽を取り戻す−2/4−
意識がゆっくりと浮上する。息が苦しくて、体中が痛くて熱くて
でも、不思議と心は穏やかで
貴方のぬくもりに包まれているのを感じた。
目を開くと、枢の部屋の天蓋が視界に入った。
「白亜……?」
声の方に視線をやれば、すぐそばにある貴方の顔。
『……かな、め……』
私は枢に抱き締められながら、彼と一緒にベッドに横たわっていた。
ゆっくりと頬を滑る枢の指先が、私が泣いていたことを教えてくれた。
こんなにも大切なことを忘れていたなんて……
こんなにも長い間、貴方を独りにしていたなんて……
『……私……、』
「いいんだよ、白亜。……記憶は、戻ったんだね……?」
『……ええ』
抱きしめる枢の腕が強さを増した。
「白亜、……ごめんね。君をまた絶望の水底に引きずり戻してしまった……」
その言葉に私は首を横に振る。
涙はとめどなく溢れて止まらない。
謝るのは、私の方……。
『枢…、私こそ、ごめんなさい。貴方はずっといてくれたのに。今も昔も、変わらず私のそばにいてくれたのに。……記憶が戻って…よかった……。私は、貴方を本当に独りにしてしまうところだった……』
辛く悲しい記憶だけど、それはとてもとても大切なもの。
私たちの、大切な記憶。
『……枢、愛してる……』
ありったけの想いをその言葉に乗せた。
「僕の方が、きっとその百倍愛してるよ」
懐かしい台詞に、涙と一緒に思わず笑顔が零れた。
「もう休んで。吸血鬼に戻ったとはいえ身体はまだまだ回復していないんだから」
『ええ…』
枢の声はだんだんと遠ざかり、私の意識はまたゆっくりと沈んでいった
ねえ、枢
ほんの少し、ほんの少しだけど、昔よりは私、強くなれた気がするの。
もう終焉は望まない。
私が犯してしまったこの重い罪を、償わなければいけないから。
今度は逃げずに立ち向かうわ。
決して赦されはしないけれど。
だけど貴方と一緒なら、この暗闇の中でもきっと生きてゆけるから…。