◇第十五罪:純白×真紅×漆黒−7/8−
side 枢「この間の夜…、私を眠らせて記憶をいじったのは枢センパイですよね」
緩やかにステップを踏みながら思い詰めた瞳で優姫は問うた。
「まるで…子供が首をつっこもうとするのを止めるみたいに……」
「…違うよ」
そう、違う。
眠らせたのも記憶をいじったのも僕ではなく白亜だ。
しかしそれを言ってしまうと白亜が普通の人間ではないことを認めてしまうことになる。
「ただ守りたかっただけなんだ」
本音で真実を誤魔化した。
僕も白亜も優姫を守りたい。それは確か。
…だけど僕はそれ以上に計画を遂行したい。
そのためにはこのひな鳥を囮にすることも厭わない。
交わらない視線。
僕はさぞ冷たい目をしているのだろう。
ワルツを踊り終えると意を決したように優姫は行ってしまった。
「ごめんなさい」とだけ言って。
彼女の元へ。
閑は今頃ほくそ笑んでることだろう。
目的のあの娘を手中にして。
彼女が欲しかったのは初めから僕でも白亜でもなく、優姫だったのだから。
優姫を黙って行かせたことを君は怒るのだろう。
夜のテラスを隔てるガラスの向こう、煌めくホールの中に無意識に君を探した。
そこで僕の視界に入ったのは
紅と黒。
白亜と零が踊る姿。
僕と踊った時に映えるようにと選んだ君のドレスは、忌々しいほどあの黒い制服に似合っていた。
真紅と漆黒。
ダークブラウンとシルバーグレー。
お互いがお互いを引き立たせる、あらかじめ計算されたようなそのコントラスト。
白亜を見つめる零の目も、彼を見上げる君の目も、これ以上ないほど優しさに満ち溢れている。
錐生零……
いっそのこと、この場で殺せたらどんなにいいか。
でもそんなことをすれば僕はきっと後悔するだろう。
いや、殺すことも…できないか……。
零は嫌でも彼と重なるから一筋に憎めないのが腹立たしい。
追憶と愛憎が僕の中で螺旋を描く。
気付かないうちに、窓ガラスには罅が入っていた。
「なになに?枢。荒れてるなあ。どうしたの?」
「…浅はかなことをしないように、僕を縛り付けてほしい気分だよ……」