王妃の日記 | ナノ


 ◇第十四罪:クイーンは不敵に微笑む−8/8−
side 白亜

リビングを後にした直後、突如体中が激しい痛みに襲われた。
寮まで帰るのは無理だと判断し二階へ向かう。
二人に気付かれないよう、そっと。

やっとのことで階段を上がり、いちばん近くにある客室に入った。

『……あっ……』

まだよ……

まだだめ……

『……っ……』

まだ、あの子を守らないといけないのに……

そんな願いも空しく身体の激痛は増すばかり。
袖をめくると腕には無数の青紫の痣ができていた。
吸血鬼因子が体内を侵食している証拠。

『……っ……あっ』

痛みに耐えきれず床にくずおれた。

カシャン―――

そばのチェストから落ちてきた"何か"が視界に入った。

―――血液錠剤ケース。

たぶん零の置き忘れだろう。
ふとある可能性を思いつき、縋るような気持ちで五、六粒を一気に飲み込んだ。
すると嘘のように激痛がゆっくりと治まる。

この十年間対処法がなかったのに、こんな近くに薬があったなんて。

『……その場しのぎにしか、ならないと思うけど……』

それでも、この"ゲーム"を乗り切るには充分。

しばらく息を整えていると階下から物音がした。
窓を見ればどこかに駆けて行く優姫。
"どこか"なんて、一つしかない。
間に合うようにと願いながら急いであの子の後を追う。

こんな時なのに速く走れない体がもどかしい。
でも無理をしてこんなところで倒れてしまうわけにはいかない。
仮の寮に入り、優姫の姿を探す。
その途中で仮面をつけた銀髪の青年とすれ違った。

『……零?』

思わず呼びかけてしまった声に青年は振り向く。
違う、おそらく彼は片割れの……

――――ポタリ

頬を伝う感触に手をやれば、なぜか涙が流れていた。
無性に胸を締め付ける感情に訳が分からず戸惑いを覚える。
青年は私を一瞥すると、そのまま何も言わずに背を向けた。

『待っ……』

思わず手を伸ばしてしまった。
途端、ホールの方からかすかに聞こえるまり亜の声。
今は何より優姫が優先。
揺さぶられる心に蓋をして急いで暗い廊下を進んだ。

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