◇第一罪:赤い記憶−3/4−
あの日――――「白亜…優姫… あなたたちの吸血鬼の因子をすべて眠らせて、あなたたちをただの"人間"にするわ」
『お母様、この術式は一人にしかできないはず。それにこの術式をやってしまうと…っ」
貴女は、命を落としてしまう……
「大丈夫よ、白亜」
お母様はそう言って、いつもと変わらず優しく微笑んだ。
その笑顔の向こうに固い決意が見えて私は何も言えなくなってしまった。
「おかあさま、おねえさま!おにいさまが!!外にはこわいのがきてるのに!」
戸惑う優姫を抱いて、お母様は術式を始めた。
ただちに流れ出すおびただしい量の血。
華やかなまでに馨る、濃く芳しい純血の香り。
「優姫、お母様…あなたの役に立てて幸せよ」
柔らかな囁きに抱かれ、優姫は術にかかり深い眠りに落ちた。
「さあ、白亜…?」
お母様はそのまま血まみれの腕を私に向かって広げた。
普通ならここで息絶えてしまうはずなのに。
なんて精神力。
『…っお母様!このまま一緒に逃げましょう!!私はいいから…!』
一緒に逃げて、どこかで手当てをすれば助かるかもしれない。
私の血くらいいくらでもあげる。
だから、一緒に、
生きて、欲しい。
「いいえ、白亜…」
ふわり、とお母様は切ないほど優しく私を抱き締めた。
「あなたを……血の呪縛から……自由に……してあげたいの……」
『……お母様……』
温かな腕が次第に固く、冷たくなっていく。
「白亜……優姫を…よろ…し……」
お母様は術式の途中で
灰になった…。