◇Debutante◇
(なんて珠姫の脳内を露ほども知らない)side 英
以前から貴族たちの間で噂になっていた玖蘭の双子の姫君たち。
お二人は公の場に姿を現したことはほとんどなく、今日この夜会に出席すると父上から聞き心躍った。
枢様の妹君はどれほど美しいんだろう。
期待に胸を膨らませながら拝見した姫君たちのお姿は――特に珠姫様は――僕の理想を大きく上回っていた。
プシュケのように愛らしい優姫様。
ヘレネのような美しさを纏う珠姫様。
可憐な妹君と麗しの姉君を見て貴族たちは我が息子の嫁に、なんて囁き合っていた。
優姫様は奥様の樹里様に、そして珠姫様は枢様にそっくりで。
嗚呼なんて、お美しいんだろう……。
「か、枢様お久しぶりです、そして珠姫様、優姫様、初めまして。藍堂英です!!」
どもってしまったのも息んでしまったのも仕方ない。
挨拶なんて幼いころから何度も繰り返してきた僕でさえ緊張してしまうほどに、それほどまでに僕は珠姫様の高貴な佇まいに気圧されてしまった。
「玖蘭珠姫です。どうぞよろしくね」
そう言って微笑まれた表情は薔薇が綻ぶようで。
じっと僕を見つめる瞳にまた心臓が速さを増す。
「……」
「……」
「……」
「あ、の……珠姫様…?」
……そ、そんなに見つめられると僕の心臓が持ちません。
そんな僕の気持が伝わったのか、珠姫様は急に下を向いた。
「珠姫?」
枢様が心配そうに少ししゃがんで珠姫様の様子を見ようとした途端
躑躅様はその胸に倒れこんだ。
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