病み部屋 | ナノ


※主人公ディセンダー設定



アーチェはなまえのその誰にでも向ける、屈託のない笑顔が好きだ。それと同時に、アーチェは知っている。最近レイヴンがなまえの前に現れることで、なまえの顔が強ばることを。


「私、レイヴンさんの所に行って来ます、アーチェさん」


辛そうな笑顔でなまえが言う。アーチェはなまえ、と名前を呼んだが、なまえは振り返らなかった。



「……なまえ………」




―――。

レイヴンはなまえを連れ、自室に入った。なまえとレイヴンは相部屋だったので、特に不自然な点は全然ないのだ。
レイヴンはいつもの笑顔でベッドに腰掛け、腕を広げた。

「なまえちゃん。こっちおいで」

「ハイ…」


なまえは言われるまま、レイヴンの腕の中に収まった。その途端、レイヴンは強く強く、なまえを抱きしめる。まるで力の加減を知らない子供のように。

「ねぇなまえちゃん?このままおっさんの腕の中で窒息死、ってどう?」

「レイ、ヴン…さん…、」


絞り出したような声でなまえが答える。苦しさに、なまえが顔を歪める。その顔を、レイヴンは笑顔で見ていた。


「ねぇ、どう?やっぱり、嫌?」

「苦し……、レイヴンさん………!」

「このままじゃ答えられやしないか」


パッとレイヴンがなまえを開放する。ゲホゲホとなまえが咳き込む。だがレイヴンのなまえを見るその表情は、まさしく無表情だった。


「ねぇ、おっさんの腕の中で死ぬのは、嫌?」

「…ゲホッ、いや…、です……」

「何で?」

「レイヴンさんと……いられない、から…」


レイヴンは笑顔になった。
だが。



「じゃあ、おっさんと死ぬ?」



なまえは瞳を大きく見開いた。いつも死に急いではいけない、と切なげな表情で語るレイヴンとは、まるで別人だった。


「レイヴンさん…何で…」

「さあ、何でだろうね」


レイヴンはなまえの腕を掴んで自分の体の上へ引きづり倒し、ベッドでなまえをまた抱きしめた。


「どう死にたい?」


レイヴンは淡々と話を進めていく。なまえは瞳に涙を浮かべた。なまえの好きなレイヴンは、もっと優しいヒトなのに、と。



「さっきみたいに腕の中?それともおっさんとのキスで窒息死?あ、おっさんに首絞めて殺してほしい?」


どんどんとレイヴンは話し続ける。なまえはレイヴンを恐怖の目で見ていた。恐い、それだけ。
なまえの涙は溢れるだけだった。



「短剣で一刺し、弓で貫く、湖で二人で、ってのも悪くねぇわね」

ねぇ、なまえちゃんはどれがいい?とレイヴンは笑顔で尋ねる。
なまえはふるふると首を横に振るだけだった。


「レイヴンさん……」

「なあに?」

「レイヴンさん…!」

「どったの」

「私の知ってるレイヴンさんは、何処ですか…?」



ボロボロとなまえは涙をこぼす。もう自分の知っているレイヴンに助けを求めるしかないのだ。なまえはきっと夢だと言い聞かせていた。朝になれば、レイヴンは…。


「俺様はおっさんよ?おっさんは俺様一人しか居ないでしょーよ」


あいしてるぜ、とレイヴンはなまえに囁く。
なまえは涙を流す。


「嘘よ嘘。おっさんが本気でなまえちゃんのこと殺そうとすると思う?」


なまえは迷わず首を横に振った。



「でしょ?なまえちゃん、あいしてるぜ…」



この言葉でなまえはまたレイヴンを信じきってしまうのだ。
もう一週間もこの状態だというのに……。





―――

微妙に虚ろだけど言動は普段通り、なレイヴンに皆騙されてしまうのです




11.07.18


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