病み部屋 | ナノ


オリジンの審判も無事終わり、彼はクランスピア社の社長となっていた。お兄さんもエルちゃんもいなくなったから、寂しげな顔で言った彼の元に私は居候させてもらっている。朝昼晩と病み付きになる様な手料理まで振る舞ってくれて(因みにお昼はお弁当)、彼は本当にいい人だ。
そもそも私が彼らに同行した理由は、家もお金もないので宿代割り勘で戦闘もするのでついて行かせてくださいという何とも情けのない理由だ。置いてもらえて、本当に感謝している。


「ルドガーさん。私、今日はお夕飯いりませんから」


私の分まで気にせずに、言いかけた私に向けられたのはいつもの優しさの欠片もない、冷たさを露にしたその瞳。今、ここまで身の危険を感じる様な恐怖を初めて彼に抱いた。


「…外食するのか、俺の言い付けを破って」


強い力で掴まれた手首と、口元は笑顔だというのに睨む様な目をした彼にどうしていいかわからない。確かに“俺以外の手料理は食べるな”と言い付けられてきたけども…。
怯えるしかない私にふと彼は穏やかな表情に戻る。一言目に発されたのは、先ほどの行為を詫びる言葉だった。あまりに優しい声音とその笑みに、逆に私の身体はぞわりと粟立つ。恐い、ただ純粋に。


「俺が作った物以外、なまえに口にしてほしくないんだ。…それに」
「…え?」
「…もうすぐ、俺の料理しか食べられなくなる」


彼はそのまま無言でキッチンからもう出来上がっている朝食を運んできた。
スプーンを手に取るも、彼が先ほど呟いた言葉が引っかかって、頭から外れてくれない。ルドガーさんの料理しか食べられないって、どういう意味…?
なかなか食べようとしない私を見て、彼が口元の曲線は保ったまま、悲しげに眉を下げた。加えていつもより落ち込んでいる様な声のトーンで「…食べてくれないのか?」と問う。けれど私は恐くて恐くて仕方がないのだ。彼の目が、笑ってなどいない。
ルドガーさんがスプーンを私の口元に近づけ、無理矢理食べさせようとする。


「はい、なまえあーん」
「…い、嫌」
「わがまま言わない」


こじ開けられた口に無理矢理それを入れられ、抵抗する暇もなく口元を押さえられた。彼の目は本気で、どうやら私がこれを飲み込むまで、解放などしてくれない様だ。恐怖で、物の飲み込み方も忘れてしまった私にしびれを切らしたのか、彼は私の顔を上に向かせ、強引に飲み込ませた。


「なまえ、食べるだろ?」
「あ…、ルドガー…さ…」
「うん、いい子だな」


私の身体が私の意思に反して動く。あっという間にいつもの様に完食してしまった自分は、目の前で上辺だけの笑みを浮かべる彼に何をされてしまったのだろうか。


「流石3日分の量を入れただけあるな」
「ルドガーさん…それどういう…?」
「ちょっと依存性の高い薬を…小量な。けど人体に害はない」


さも当然の様にさらりと言ってしまう彼は、いつからそれを私の料理に入れていたんだろう。この前?たまには私が料理を作ると言ったより前?
…もしかして、最初から?


「逃げられるなんて思わないでくれよ、なまえ」
「何で、こんな…」
「金の怖さは俺がよく知ってる。ろくに持っていないお前が逃げたって、無駄なんだ」


お兄さんと大切な少女を失った代わりに得た財産は、彼の味方をしている。彼はまさにその味方で私をつなぎ止めようとしているのだ。
薬の依存性に逆らえない私の唇は、勝手に彼にお代わりを要求する。ルドガーさんの口角は上がっているのに、彼はとても辛そうだった。





―――

俺の料理だけ食べててくれよ




13.07.31



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