病み部屋 | ナノ


彼女がいなくなった。
烈宇くんが暗い面持ちで話し出したから、何のことかと思った。烈宇くんの話によると、不注意で居眠り運転をしていた男の車で彼女は空へ飛んで行ってしまったらしい。僕がいくらいくら高く浮いたって、届かない領域に彼女は飛んで行ってしまったんだって。置いて行かないって、ずっと一緒にいてくれるって思ってたのに。ううん、なまえ自身も約束してくれた。


「加害者の男、見せて」
「…通雅、」
「わかってるよ烈宇くん。顔が見ておきたいんだ」


烈宇くんが見せてくれた新聞に、チラリと加害者の男が載っていた。何、コレ。なまえが、なまえがいなくなったっていうのに、扱いが小さすぎじゃない?
きっと世の中の人たちにとったら、こんな小さな交通事故、とるに足らないお話なんだろうね。けど、僕にはすごく大切な女の子だったんだよ、なまえは。友達なんて枠、とうに越えてた。親友でも足りなくなって、いつしか恋人になってた。ねぇなまえ、僕のこと置いてっちゃうの?


数日後、僕はやっぱり暗い顔をしていた。鏡が今の僕を映し出す。なまえが隣にいない僕は、僕じゃないみたいだった。


「…どうしてかな。すっきりしたはずなのに」
「おい、通雅!」
「烈宇くん。どうしたの、そんなに慌てて」
「ひき逃げ男が、殺されたって…」


まさか、烈宇くんは僕を疑う顔をしてる。でも君が僕を疑うのは当たり前だよね。都合が良すぎるんだもん。
烈宇くん、君の考えは当たっているよ。生前のなまえは人を傷つけてはいけない、何度も僕にそう言った。でもその彼女を傷つけたんだから、それを言うなまえはもういないんだから、構わないと思うんだ。


「ね、烈宇くん。僕もあっちに行こうかなぁ」


眉を寄せた烈宇くんは怒っているみたいな顔であり、悲しそうでもあった。
ああでも、全部終わっちゃったんだね。僕にはもう何にも残っていない。烈宇くんという大親友を守ってあげたいけど、なまえがいないのなんて嫌だし…。
なまえみたいにならない様に、烈宇くんだけはやっぱり、僕が守らなきゃ。





―――

依存する相手が足らないよ、




13.05.30



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