病み部屋 | ナノ


グシャ、グシャリ
何かが割れる音がして、私は音のする方向に向かった。何も考えずに音の発生源を探していた私が見つけたのはよく話す、勝手に友達だと思っている緑の彼と、その彼が大事にしている緑のヨーヨー。私の目の前で、私の知っている風雅さんならば絶対にしないことをやっている。これは、私の見間違いなのだろうか。


「風雅さん!風雅さん何してるんですか!?」
「あ…来てくれたの、なまえ」
「それ、風雅さんの大事なヨーヨーじゃないですか!」
「いい。いいんだ、こんな物。いらない、俺にはいらない。なまえがいれば、いいから」


私の大好きな優しい笑顔の風雅さんが、大事に大事に扱っていたヨーヨーをグシャグシャに踏み潰して壊してしまっている。まるで汚いゴミでも見るかの様なその目は私の知っている風雅さんではなかった。もう形を成していないソレを恨みでもあるみたいに、憎い相手を踏み潰すみたいに執拗に踏み続ける風雅さんの目には何も映っていなかった。


「ふう…、これでいいかな」
「風雅さん、ヨーヨー…」
「ヨーヨー、確かに俺の友達だった。だけど今はなまえがいる」
「でもそんな…、風雅さん、自分を殺すみたいなこと、しなくたって」
「自分を殺す…か。確かにそうかもしれないな。友達もいなくなっちゃったんだから、俺とだけいてよ、なまえ」


私を抱きすくめる風雅さんの足元には壊れてしまったヨーヨー。これが壊れてしまうと涙目で震えながらヨーヨーに謝っているのに、自分から壊す、なんて。
抱きすくめられている私は風雅さんから逃げられない。今日は風雅さんと新しいヨーヨーを見に行くって約束をしてたのに、ヨーヨーを楽しそうに扱う風雅さんが私は好きだったのに。


「俺とだけいてくれるでしょ、ね?」
「風雅さん、ヨーヨー…ヨーヨーも、」
「なまえ、俺を見て。あんな物なくていい、俺を見て」


ヨーヨーしか見てないよね、なまえ
いつか風雅さんがむくれながら言った言葉だ。そんなことない、否定する私を訝しげに見つめた風雅さんの目は、こんな目じゃなかった。違う、違うんです風雅さん。ヨーヨーを見てるんじゃない。ヨーヨーを扱うあなたが好きで、憧れで。
嬉しげに笑う風雅さんは、もう私の好きだったヨーヨーを持つ風雅さんには戻ってはくれないのだろうか。





―――

ヨーヨーとの決別




13.05.30



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