病み部屋 | ナノ


彼女は気が弱い。通雅の様に多少臆病でも、本人の能力が高ければ生きていくには問題など起こらないだろう。だがなまえはというと、昔の俺の様に押さえつけられる側の人間だ。
嗚呼、俺の知らない内になまえはまた泣いてる。


「…どうした」
「机、ぐちゃぐちゃにされて…!」
「お前、髪濡れてるぞ」
「もう教室戻りたくない…!烈宇さん、烈宇さん…っ、」
「いい、ここにいろ」


大丈夫だから、抱きしめつつ軽く頭を叩いてやれば涙目でこっちを見るなまえ。まだ涙は流れているものの、彼女は笑ってくれた。キュ、と小さく俺を抱き返す手が可愛い。
なまえは潰そうと思えば簡単に潰せてしまう。アイツらに潰そうという気はないんだろうか、このままではなまえは潰れる。その前に、俺が何とかしてやる。…そうしなければ、本当に。



なまえをいじめているのは女子。ならば普通に俺が敵う相手だ。いじめはエスカレートしていくもの、少なくとも俺のいた世界ではそうだった。鬱憤晴らしに弱い奴を寄ってたかっていたぶる。エスカレートしたならば女子とて侮れない。男を呼んで、俺がされた様な行為をなまえにさせかねない。彼女は泣きじゃくる、俺だけではなく男全員が恐くなっていって、克服したとしても多少の怯えを抱えながら生きていく。なまえを汚すなど、許される行為じゃない。


「やだ、烈宇くんだわ!」
「私たちに何の用ー?」
「…彼女の為に、消えてくれ」


取り繕った女共の笑顔が苦痛に変わっていく。まずは高温の炎で火だるまにした後、俺のもうひとつの武器、水で水責め。見るに耐えない顔になる女を見ても、まだ足りないと、ふつふつと沸き上がる怒り。なまえの為ならばコイツらが消えようと苦しもうと構わない。


「まだ、まだだ。なまえの為、なまえの為に…」


翌日、なまえをいじめていた奴らは行方不明ということになっていた。勢い余って俺が全て消してしまったから、見つからないのも無理はない。携帯も熱で溶けて使い物になりそうもなかった。お前にはそんな結末がお似合いだ。なまえの為に消えられたんだ、少し感謝してほしいものだな。


「烈宇さん、あの…」
「なまえ、今日は泣いてないな」
「不謹慎、かもしれないんですけど…、いじめてた子たち、行方不明になって…。私、教室にいれる様になりました」
「そうか、よかったな」
「烈宇さんがいたから、何とか心折れずにここにいれてます…!ありがとうございます!」


なまえの満面の笑みを見て、俺は彼女の為になることをできたと叫びたいくらいに嬉しくなった。そうだ、やっぱりなまえはそうやって笑っていなければ。その笑顔が俺は好きだから。なまえの笑顔を見なければ、俺は女とは話せてはいなかったはずだ。
つい抱きしめた彼女の頬が赤い。ふと見た先にはさっきまで練習していたものだから水溜まりができていた。水に映る彼女は嬉しげに微笑んでいたが、俺の目は泥水の様に淀んだ色を現していた。





―――

病まないって言ったばっかなのに病んでしまった…




13.05.24



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