病み部屋 | ナノ


私にはわかっていた。
彼の想いも私の想いも決して叶いやしない。ならばと私は彼に、この恋に身を捧げようと思うのです。それだけが私にできる、唯一のあなたの為の行動です。

烈宇さん、どうか喜んでくださいね。



何故か通雅と同じように俺にくっついてくるなまえが、俺の隣からいなくなった。何となく不安になるが、アイツにだってひとりになりたい時もあるだろう、そう思ってしばらくは放っておくことにした。通雅も通雅で彼女を気に入っていたらしく、なまえちゃん来ないねぇ、と残念そうに眉を下げていた。
アイツ、本当に何してんだ?


久々に通雅のクラスまで行って、なまえに会いに行った。明るい顔を見せる彼女に前と変わった様子は見受けられない。
どうしていきなり離れたとか、聞きたいことは山ほどあるがまずはなまえが登校拒否などにはなっていない様で一安心だ。


「なまえ、どうして屋上に来ないんだ」
「烈宇さん、待っててくださいね。もうすぐ、もうすぐですから」


質問を答えず、意味深なことを言って笑ったなまえは、少し変わっている気がした。嫌な予感がする、この言い知れぬ不安感は何だ。なまえについててやらなくては、大変なことになる気がする。何をやらかす気なんだ、もうすぐって何がだ。
通雅の様に笑うなまえは、何を考えている。



久々に烈宇さんに会えて幸せだった。私を心配してくれるあの瞳は本当に素敵で、優しい。私、やっぱりあなたの為なら何でもできちゃいます。きっと喜んでくれますよね、烈宇さん。
頑張りますからね、私。


隣のクラスの女の子を呼び出した私は、まず彼女にそこに座ってほしいとベンチを指した。言葉通り座ってくれた素直な彼女にほくそ笑む。
烈宇さん、もうすぐですよ。あなたの願いが叶うんです。


「待て、なまえ!」
「…あれぇ、烈宇さん?もうすぐですから、後もうちょっと待っててくださいね」
「馬鹿、んなことしなくていい!」


私の持っている縄を見て、せっかく呼び出した女の子は逃げてしまった。ああ、チャンスだったのに。ぼうっとその様子を目で追う私を、烈宇さんが叩いた。叩かれた頬を押さえて呆然と烈宇さんを見る私が彼の瞳に映っている。酷い顔だな、私。


「なまえお前…、何であんなこと」
「烈宇さんの想い人さん、運んであげようと思って」
「馬鹿!お前まで通雅みたいなことしなくていいんだよ。それに俺は一方的につきまとわれてただけだから、想い人でも何でもない」


なまえの濁った目に涙が溜まっていき、それと同時に段々と光が戻っていった。あのまま見張っててやらなかったら、なまえはどうなっていたのだろうか。ずっと通雅の様な目をして、俺を想っていたのだろうか。
頭を撫でてやると、いつものなまえに戻っていた。


「病む必要なんてないんだ、なまえ」


こくこくとうなずくなまえにはそう言っておきながら、実際ふたりを失いそうになったり、なまえが誰かのせいで泣いていたとしたら、俺も何をするかわからない。
想い人なら目の前にいる、その言葉に頬を染めるなまえは可愛いと素直に思う。彼女がまた心を病む日は来るのだろうか。
そして、俺が心を病む日は――





―――

烈宇さんは病みません




13.05.22



戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -