病み部屋 | ナノ


「何故俺の指示を聞かない?」


私を据わった瞳で見つめる最近の出雲隊長はどこかおかしい。具体的にどこがどうと言える訳じゃないけど、何かがおかしい気がしてならない。元よりいつも真面目な顔をしている隊長だけど、今日は無表情というか、目が虚空を見つめている気がして、恐い。威圧的ではないのに怯んでしまう私は、震える声を絞り出した。


「あの…出雲隊長、私何か命令無視を…?」
「言っただろう、俺以外と話すなと」
「そんなこと言ったって…!」
「俺がなまえの代わりに言葉を使えばいい、そうだろう?」


何も問題はない、さも当然の様に言い切った隊長はやっぱりおかしい。笑顔だって、何故だか恐怖を感じてしまってしょうがない。私の肩にいやに優しく置かれた手に思わずビクリと震えてしまった。


「なまえ、お前はどうして俺の命令が聞けないんだ。俺が先生に報告してしまえば、なまえの立場も危ないだろう?」
「う、あ…」
「いいから、俺の言う事を聞いてくれ。俺とだけ、俺の言う事だけ」


色という色が全てどこかへ消えてしまったかの様な虚無を表したと言っても過言ではないその目に、とてつもない恐怖心を覚えた。早く、そう急かす隊長の表情に声が出ない、口が動かない。何とかパクパクと口を開閉させることには成功しても、肝心の声帯がきちんと閉まってくれない。かすれた様な言葉にすらならない声がひとつ、ふたつ、出てくるのみだ。


「なまえ、たった一言、二文字だ。“はい”の一言だけでこの話は終わるじゃないか」


落第しても困るのは私、全て私はこの人に転がされているのだろうか。早く肯定の意を返せ、隊長はそう目で訴える。どうすることもできない私はうなずくしかなかった。偉いな、そう言って隊長は私の頭を撫でる。そうさせたのは出雲隊長なのに。
もう逃げられないのはわかってしまったから、私はただ涙を流す。そうするしかない、そうすることしかできない。





―――

独占欲というよりは支配欲の強い出雲さん




13.05.13



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