病み部屋 | ナノ


私は、クラースさんに監禁されていた。いったい何故監禁されているのかもわからぬまま、私は一緒にダオスを倒した仲間だから、とクラースさんをただただ信用していた。慣れれば別に生活するにはそんなに不便な事はなかった。ただ自分が普段生活する家じゃないのと、行動範囲を制限する枷が付いているだけ、特にひどく嫌になる生活ではなかった。クラースさんが作ってくれるお料理は美味しかったし、何よりクラースさんは私に優しかった。私はクレス達についていって、ダオスを倒す為の支援を続けている内に、クラースさんに恋をしてしまっていた。そしてダオスを倒した…、つまり目的を達成し、どうしていいか、途方に暮れていた。クレス達が一緒に元の時代に帰っても、あの時クレス達と同じぐらいの時刻に村を出ていた私はひとりだった。クレスやチェスターがいるとわかっていながら、クラースさんへの気持ちが私を動かさなかった。だからクラースさんが私と一緒に来いと言ってくれた時は、本当に嬉しかった。私はクラースさんについていった。クラースさんは私にずっと傍にいてくれと懇願しながら鎖を付けた。私はそれを最初は拒んだ。だけど一緒に暮らし
ていく内に、気にしなくなっていってしまったのだ。
ある日、私の枷が外れていた。クラースさんはそれに気づかずにすぐに出掛けていってしまった。今なら逃げられる、頭ではそうわかっていても彼から離れてどうするのか、私には皆目見当がつかなかった。それに、クラースさんは前の晩に、私から離れないでくれと私を抱きしめた。ひどく弱々しいその姿に、私は彼の傍にいてあげたい、そう強く願った。話を聞けば、彼は学会に召喚術は実際に人間にも扱う事ができたと発表したらしい。でも学会のヒトたちは、誰もクラースさんを認めてくれず、一生懸命研究成果を発表したクラースさんの前で、クラースさんの論文を燃やして、召喚術など異端だと言ってクラースさんを笑い者にしたらしい。君がいなくなったら私はどうすればいいんだ、と私をすがる様に見つめてきた。大丈夫だと私はクラースさんを抱きしめた。
そうこう考えている内に、クラースさんが帰ってきた。私を見てクラースさんは、安心した様に笑った。そしてまた私を抱きしめた。いなくなっていなくて本当によかった、と私を苦しい程に抱きしめた。もしかしたら君までいなくなってしまっているんじゃないか、不安ですぐさま帰って来たよと言っていた。やっぱり私が、隣にいてあげたい。
この時、私の監禁生活は終わった。でもある意味私はまだ監禁されているのかもしれない。私は心を繋がれている気がする、クラースさんに。だけれど私は幸せだ。私の恋は実り、愛したヒトと一緒にいれるのだから。


「そういえば、ミラルドさんはどうしたんですか?」


最近全くと言っていい程姿を見ないミラルドさん。監禁されている私を心配してくれて、時々本気でクラースさんに対して怒りを伝えていたりした。


「ああ、ミラルドかい? …死んだよ。イフリートと契約しに行って…そのまま」


戻って来なかった、帽子のつばを下げ、告げるクラースさんに目を見開いた。だって、信じられなかった。ミラルドさんは私の為に色々してくれて、クラースさんもミラルドさんのチェリーパイが大好きだった。ああ、今度こそ彼は、


「ああなまえ、君だけはいなくならなくてよかった…! これからも、私から離れないでいてくれるか…?」
「……もちろん、私はクラースさんの事愛して、ますし…、それに私にも、クラースさんが必要です…」
「ありがとう、なまえ…。もう、離すつもりはないからな…?」


クラースさんがまた私を抱きしめる。思いが通じあってから、クラースさんは私をよく抱きしめてくれる。私はこのクラースさんの体温が、時々ひどく冷たく感じる時がある。気のせいだと、わかっているのにぞくりとする。そう、今もすごく、冷たい。恐いくらいに。
でも私はきっとこの優しさを手放せないんだ。すがってくる、彼の事を…。





―――

依存しあうふたりの末路




12.06.17



戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -