なまえー、といきなり名前を呼んできたかと思えば、ガオー!と典型的なモンスターの真似をしながらこちらに近づいてくる男子がひとり。
「なあなあなまえ、これちゃんとできてるか?」
くるりと回って、ニカッと笑ってみせた彼、雷刀くんは吸血鬼の格好をしている。おそらく、ハロウィンの仮装だろう。
「ヴァンパイアさんかあ、オニイチャン格好よく決まってるね!」
「え、マジ!? やっぱオニイチャン格好いい!?」
「ただ…、ちょっとごめんね」
とっても得意げな彼だけど、ちょっぴり残念なことになってしまっている箇所が。自分からだと確認しづらい位置にある為、せっかくならと直してあげることに。
マントの襟をきちんとさせてから、蝶ネクタイのズレを整える。チラリと覗く喉元にほんの少しだけドキッとしたのは内緒にしておこう。それこそ、役得程度にでも思っておくことにした。
「うん、これでもっと格好いいよ。レイシスちゃんも格好いいって言ってくれると思う!」
「おー! さすがなまえ、サンキューな! オレ、すっげーイタズラも考えてるから、格好よく決めたいんだよな!」
そっかそっかぁ、と相づちを打ちながら、私はふと気づく。
目の前には仮装した雷刀くん、彼による“すっげーイタズラ”との発言。いつ、あの呪文を言われてもおかしくない状況なのだが、自分は今、何も持っていない。
気づいてしまうと、やけに引きつっていく表情。できれば、悪戯は避けたいなあ。そう願う私の思いは届くのか。
「あっ、そろそろふたりのところに行ったらどうかな? 烈風刀くんに先越されちゃうかも、色々…」
「うわっ、確かにそうだな、なまえ頭イイ! でもその前になまえ、トリックオアトリートッ!」
思わず、笑顔のまま固まった。何かの逃げ道を探して下を向いてみても、何もない。
引きつった笑顔で雷刀くんを見れば、意外そうな顔をしていた。
「もしかしてなまえ…、お菓子ないのか?」
「……うん」
「おっ、じゃあオニイチャンのスペシャルすっげーイタズラ、最初はなまえかぁ!」
なんかスペシャルが増えてる!とのツッコミを入れる前に、ニヤリと笑う雷刀くんに詰め寄られ、どんなものかと想像していた悪戯の中身を体感せざるを得なくなってしまったのだった。
―――
オニイチャンってこんなテンションで合ってましたでしょうか?
15.10.31
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