※顔文字表現あり
彼女は特に不用心ではなかった。SNSでの情報発信は人並みに気をつけていたし、誰のものかわからないアカウントとの交流などもってのほかだった。
「…送信し間違い?」
ある日彼女の元に届いた、謎のアカウントからの顔文字だけのメッセージ。しばらく訝しみの目を向けた後、彼女は一時の気の迷いと言うべきか、好奇心と言うべきか、はたまた全く違うものか。決してそう不用心ではない彼女が、珍しくそれに駆られるように返信を打っていた。
『こんにちは。可愛い顔文字ですね』
―――どうして返信なんかしたんだろう。こんなことして何か変なことに巻き込まれたらどうしよう。
不安と後悔が押し寄せる中、メッセージに返信がきた。
『(*・ω・)ノ』
「たったこれだけ? ってかまた顔文字だし…」
更に怪しむが、不思議と指が勝手に返信を打っている。顔文字だけなので何を伝えたいか彼女にはさっぱりわかっていないのだが、何故だか相手が喜んでいるように感じたのだ。
『それも可愛いですよ』
『o(`ω´ )o』
伝わっているのかいないのかも、文章でないのでわからない。ただわかるのは、相手は顔文字以外を使用する気はなさそうだということのみ。もしかしたら自動でメッセージを送り続けるAIの類いのものかもしれない。
『そろそろ寝なきゃなので、また今度』
そのメッセージを境に謎のアカウントとのメッセージ履歴は終わっている。翌日になろうと、その後彼女がメッセージを送ろうと、返信が返ってくることはなかった。
「……新手のイタズラだったのかな」
彼女は知らない。自分がやりとりしていた相手の素性も、意図も。
彼女の返信で、彼が外への希望を得たことも。
―――
みなさんマネしないでください
18.04.30
戻る