※レイズ設定
ここまで共同生活するメンバーが増えてしまうと、自然とあまり関わらない人も出てくる。別に悪い印象を持っているわけではなく、なんとなく接点がないだけで。私にとってそのうちのひとりが、目の前にいらっしゃるアイゼンさん。 スレイたちとの関わりがそんなにないわけではないのに、何故かあまり関わることのなかったヒトだ。別に長身強面だからとか、エドナ様のお兄様だからとか、そういうのではない。断じて。きっとドSなのだろうとかも思っていない。断じて。
さて、そんなアイゼンさんと料理をすることになった。しかも、ふたりで。あまり料理が得意でないのと、気心しれない相手とふたりきりなのが変に不安を駆り立てる。ミスしたりしたら恐そうだなぁ。そんな風に考えると余計にミスをするタイプなのに、嫌でも考えてしまって。
「おい」
「は、はい! ごめんなさい!」
「…まだ何も言ってないが」
「ご、ごめんなさい…」
過剰反応してしまうのも、アイゼンさんのお顔が恐いからとかではない。決して。…いや、多少はそうかもしれないけれど。海賊さんということもあり、そういうオーラがあるのかもしれない。
こんな態度じゃ申し訳ないと思いつつ、緊張は意識すればするほど私を支配していって。なんだか手も震えてきてる気がする。
「鍋には手を出すなよ」
「え? うわ、っつ!?」
なんとか挽回しようと鍋に手をかけた瞬間だった。水がこぼれる音と共に沸かしたお湯が宙を舞う。とっさに手を放したら、後ろにグイと引っ張られる。ビシャリ、床に着地する湯気立つお湯が危なかったことをありありと伝えてくれている。ホッと息を吐いた後に、気づいてしまう胸の下あたりに回っているたくましい腕。
「わっ、ご、ごめんなさい! あ、ありがとうございます!」
こぼれたお湯よりも、回った腕のほうに目が行ってしまってしょうがない。黒いコートに隠れてはいるけど、自分の身体に回っているせいで嫌でも自分とは違う箇所を意識させられてしまって。そんなにウブなつもりはなかったのに、思ったより私は反応してしまうタイプのようだ。
パッと腕を放された後でも、やけに感覚が残ってしまっていて。うつむきがちになって、まともに顔を合わせられそうにない。
「死神の呪いかと思うぐらい、見事な無視だったな」
「…す、すみません」
「元からこういう失敗が多いようだから気をつけてはいたが…やはりそう簡単にはいかないか」
「……え?」
「買い出しの時、主食を買い忘れたりしていただろう」
見られてた!? という驚きと恥ずかしさ、それからさりげなくフォローしようとしてくださっていたのかという優しさに胸の辺りが暖かいようなくすぐったいような不思議な感覚に包まれる。もしかしたらアイゼンさんを見ていなかったのは私だけで、あちらは私を目に入れてくれていたのかもしれない。いや、むしろ今入れてくれていたのがはっきり判明したけれど。
うつむく顔をゆっくり上げて、こっそりアイゼンさんの顔を見てみる。前に自分が思っていたよりずっと恐い顔はしてない気がしたのは、印象の変化からだろうか。
「…床は俺がやる。なまえはあっちを頼む」
「は、はい。ごめんなさい」
案外、恐いヒトではないんだとわかってよかった。これならもう少し緊張せずに作業ができそうだ。
「おい、塩加減はそうじゃねぇ」
やっぱりちょっと恐いけど。
―――
アイゼンさんをじわじわ意識したい
18.03.08
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