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ぼーっとキャッシュカードを見つめる彼。ATMもないのに、いったい何の用があるのか。


「ここホテルだから、ATM行くなら出かけなきゃだよ? わかってる?」


返事なし。彼はちょっと不思議な子で、私には聞こえない声が聞こえたりしてるらしいから、今度はカードとの対話でもしているんだろうか。


「って、何やってんの!?」


おもむろにカードへ顔を近づけたかと思えば、口を開けて食べようとするではないか。


「止められたか…、ちぇっ」
「いや、ちぇっじゃないでしょ! 私たちのこれからが危ういところだったよ…!」


使えなくなったらどうするの、とか言っている内に、彼の目がこちらをじっと見ていることに気づいてしまった。
まずい。誰だ私と彼を同室にしたの。むしろ誰だ私と彼をふたりきりにしたの。いや、普通に考えて急に出かけちゃったアナとテディだけど。


「キャッシュカードがダメならなまえを食べるか…」
「いやいやダメでしょ! パンは!?」
「パンは迷った時用だからダメ。もうすでにたべるコマンド出てるし」


たべるコマンドって何!?とかツッコミを入れようとするんだけど、私の少ない知識でもホテルの部屋で男女が食べるとかなんか危ない感じがして、ついついしどろもどろになる。微妙に熱くなってくるほっぺが妙に恥ずかしくて。


「あーん…」
「ちょっ、やめっ、やめて!」
「やめない」


言っても聞かない彼は、そのまま私におでこに噛みついた。


「…痛いんだけど」
「なんか美味しい…、気がする」


あくまで、真顔。表情を崩さない彼は、まだ私にかじりつこうとする。
またあーんとか言って口を開けるので、つい。


「やめてください!」


この一言と共に、つい(パーだけど)殴ってしまった。
痛いとか言ってるけど自業自得ってやつだよ。こっちだって痛かったし。
これで彼がなんでもかんでも食べようとする癖、治してくれたらいいんだけど。





―――

やめてください。のシュール感が好きです




16.06.20


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