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「…どこ、行くんですか」

「誰も知らない場所…ですかね?」

「知らない場所って…?」

「さあ、それは私にも」


確かに走行しているのに、ほとんど揺れを感じない。後部座席に乗せた私を振り返らずに、紗音さんはハンドルを切る。
目覚めたら乗せられていた車内のバックミラーに映る紗音さんの顔は、帽子で隠れてよく見えない。弧を描く口元がどこか不気味に見えて、目を逸らした。


「…誰に頼まれたんですか?」

「クライアント? いませんよ、今回は完全に私の意思です」

「まさか…」

「あ、今回の運賃はとる気全くないのでご安心を」


窓の外は見覚えのない景色で、少なくとも私の知らない場所を走っていることは確かだ。


「…運賃払ったら、下ろしてくれますか?」

「何故? これは私の意思だと言ったはずなのですが」

「じゃあ、家に帰してください」

「お断り、させていただきます」


バックミラーに映る弧を描いていた口元が、不機嫌を表す様に真一文字になっている。怒らせてしまったかもしれない、思いつつ、何も打開策が浮かばない。
どこへ行くともわからないものに乗っている不安と、運転手のその人への恐怖で思考が混乱している。早く安心できる場所に行きたい、今の私はその一心だ。


「いつも、いつもそうですね」

「そう、って…」

「なまえさんは私といても私を見ない。こうして、拉致までしたのに」

「紗音さんを…?」

「今だって、私のことなんて考えてくれてないでしょう」


それは紗音さんがこんなことするから、とは言いたくても言えなかった。
紗音さんにとって、私の態度は不満を感じさせてしまうものだったらしい。つまり、私がこの人を傷つけたから、こんなことになっている訳で。


「…紗音さん」

「なんでしょうか?」

「お話し、しませんか? 車を止めて」

「この状態でも話せますんで、どうぞ」


ゆっくり息を吐いて、バックミラーの紗音さんを見た。口元の弧が戻ってきているのを見ると、間違った選択ではなかった様だ。

さて、何から話そうか。
不思議と戻ってきた平静と共に、他愛ない話を考える。
紗音さんはどんな話題がお好きかな。





―――

連載、お疲れさまでした!




15.01.30


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