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しょんぼりとこの現実世界から切り離された場所、金融街の人気のないところで私は膝を抱えながらうずくまっている。最初こそは自身のアセットが心配そうに声をかけてくれたが、彼なりの優しさなのか、すっかり無口になってしまった。
そんな私の視界に、突如見慣れた金色の瞳が現れる。


「どうしました、お客様?」
「ま…真坂木さん…」


この人の登場の仕方はいつも心臓に悪い。いきなり視界に前触れもなく入ってくるものだから、条件反射で心臓が跳ねてしまう。なんとか今日は悲鳴を上げずに済んだけど、いつも彼に「お静かに」と唇に人差し指を当てられてしまうのだ。


「具合が悪いんですか?あー、それとも失恋」
「っ、」


ビクッ、と肩が震えた。なるほど、とでも言う様に彼の口角が上がっていく。
いつもあんな調子のこの人だけど、口は上手い。愛想もいいし。言葉だけでも、慰めてくれるのかな。


「へー、みょうじさんみたいな方でも失恋なさるんですねぇ」
「…私、失恋しなさそうですか?」
「私の目で見れば、ですけどね。それはお辛かったでしょう」


なでなで、と彼の真っ白な手が私の頭を撫でる。あまりに意外なその行為に、思わず目を見開いて、彼を見上げた。彼の口元には、弧が描かれているだけ。
「おしまい」と離れていく彼の手が名残惜しい。もう少しだけそのわずかな温もりが欲しかったな、なんて。


「失恋なされたなら勝ちましょう、みょうじさん!」
「…ディールに、ですか?」
「ええ、もちろん!あなたがお金を手にしていれば、それだけ色んな方が振り向きやすくなりますからね」
「またそれですか、真坂木さん…」


次の人を見つけるか、無理矢理振り向かせろと、そういうことですか真坂木さん。親指と人差し指で輪を作って口角を上げている彼にため息を吐く。

本当は、失恋自体が悲しかったんじゃない。ただただ自分の向ける想いが虚しくて。
本当はこの失恋もどきを理由に、彼に慰めてほしかったんだ。それであわよくば、手を差し出してはくれないだろうかと。ああなんて浅はかな。
でも期待しちゃったんだ、図々しくも。「私なんていかがですか?」なんて言葉を。


「じゃあ、私そろそろ帰ります」
「はい、お疲れ様でした」


お互いに手を振り合えば、すぐに彼の姿は消えてしまった。期待した言葉と共に。ああ馬鹿みたいな私、真坂木さんの優しさは決して私の望むそれに変わったりなどしないとわかっていたのに。
今日もまた私、井種田さんに愚痴ることになるのかな。今浮かべている私の笑みは苦笑と自嘲とどちらなのだろう。





―――

「C」全話試聴記念に




14.05.14


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