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今日、オレは彼女に別れを言いに行こうと思う。アイスガルド支部にただひとり残って、オペレーターとして頑張ってくれていた彼女を、もう自由にしてやらなければ。


「なまえ、」


外は猛吹雪で、出歩く様な人間もいない。だがこの感じであれば、彼女との話が済んだ後に止んでしまうだろう。彼女との話が終われば、すぐに。


「あれ、シレンさん。戻ってたんですね、お疲れさまです」
「…ああ。ところで、話があるんだが」
「お話?今はG波も安定してますし、大丈夫ですよ」


オレがひとりになってしまった時も、彼女はそこにいた。そこに座って、「お帰りなさい」と声をかけてくれていた。彼女はいつも、笑っていた。
だからこそ、言わなければならない。ほんの少しのためらいはあるが、オレが終止符を打ってやらねば。


「なまえ、オレはここを離れることになった」
「アイスガルド支部を?」
「ああ、だからもう、オペレーターは必要ない」
「…そう、ですか」


声のトーンを落とし、明らかに落ち込んでいる彼女はうつむいてしまった。
本当はアイスガルド支部の面々も帰ってきた、だからオペレーターがいらないなんてことはない。


「今まで、お前に何度も助けられた」
「…シレンさんのお役に立てたなら、ここにいた甲斐があります、ね…」
「だからもう、いいんだ」


うつむく彼女の頭をそっと撫でる。彼女は今、オレの行動に気付いているのだろうか。
ゆっくり顔を上げた彼女の視線と、オレの視線がかち合う。彼女はゆっくりと笑みを浮かべた。


「もう、シレンさんを見守れないんだと思うと、ちょっぴり寂しいです」
「……これからも、見守っていてほしい。お前もオレのアンサンブルの一員だ」
「…なら、嬉しいです。さようなら、シレンさん。また会いましょう」
「ああ、また会おう」


目を閉じて、ゆっくり消えた彼女はこの楽譜から離れられたのだろうか。
ふう、とゆっくりため息を吐いて外を見れば、やはり吹雪は止んでいた。きっと、彼女もあの吹雪と共に行ったのだろう。

本当は、ここにオペレーターなんていなかった。本部との通信も繋がってはいない。だが彼女は必死にやっていた、つもりだった。半透明の彼女を見て、始めこそ驚きはしたが、優秀なオペレーターだったなまえのことだ。ここが気になって戻ってきてしまったのだろう。


「いいんだ、もうみんな帰ってきたのだから」


後はそちらに演奏に行くまで待っててくれ、なまえ。





―――

シレンさんと幽霊オペレーター




14.04.04


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