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「あれ、誰だ?」


始めに出たのはこの言葉だった。
いつの間にかパーティに紛れ込んでいた知らない女の子。どうやらレイアやエリーゼと仲が良いらしく、キャピキャピと3人で話し込んでいる。


「何言ってるの、なまえじゃない。もしかして疲れてる、ルドガー?」


苦笑しながら俺の疑問に答えたジュードは俺を心配してくれたが、彼女がなまえだって?
…確かに見間違いではなく、彼女は知らない女の子だ。記憶の中のなまえを頭に浮かべた。やっぱり彼女は違う。


「ねぇルドガー、昨日頼んだスープ!今日作ってくれるんだよね?」
「え…、あ、エルに作るやつでいいのか?」
「うん!ありがとうルドガー、大好きっ」


問題の彼女が駆け寄ってきて、俺に話しかけてきた。分史世界の似て非なる人たちを相手にすることも多かったからか、割と自然に対応できた方…だと思う。
大好き、と無邪気な笑顔を向ける彼女だが、俺は確かに見覚えがない。
良かったね、なまえ。レイアたちがその子にそう声をかけるのに、違和感だけが残っていく。



数日後、みんなにひとりになりたいと言って、俺はトリグラフを歩き回っていた。何故だかはわからないが、彼女はここにいる気がして。キョロキョロと周りを見回しながら歩くが、俺の知っているなまえらしき姿は見当たらない。
彼女は俺の妄想の中の人間だったのだろうかと諦めかけて、ふと海を見た時。なまえの後ろ姿を見つけた。


「なまえ…!」


彼女の名を呼べば、ゆっくりと彼女は振り返った。確かに彼女は俺の知っている“なまえ”で。たった1日で俺の目からは涙が溢れそうになる。


「ルドガーさん…」
「よかった、やっぱりなまえはここにいるじゃないか…!」


安堵の息を漏らすと、彼女は少々困った様に目を逸らす。ルドガーさん、もう一度呼ばれた名前に自然と笑顔が浮かんでくる。どうした、優しく問いかけた俺に対し、彼女はうつむきながらその口を開いた。


「私、もうなまえじゃないんです。気がつけば全然違う名前になって、トリグラフの中の全然違う環境にいました」
「…あの子と入れ替わったのか?」
「わかりませんけど…、」
「戻ってこれないのか?」
「私はなまえじゃないんですよ」


無理に笑うなまえのGHSにメールが届いた様だ。画面を見た彼女はお母さんだ、と呟く。お母さん、と彼女は言ったがメールの相手が本来なら全く知らぬ赤の他人なのはすぐにわかってしまって。


「もう、帰らなきゃ」
「なまえ、俺は…」
「…ルドガーさんのお気持ちは嬉しいですけど…。忘れてください」
「…っ!」
「最初から私はなまえじゃなかった、そういうことにしましょう」
「なまえ…っ、」


では、と言ってひらりと彼女が振った手を追いかけて掴んだ。彼女は今にも泣きそうな顔で、俺を見る瞳が揺らいでいる。


「俺のなまえはお前なんだ」
「…でも、私…!」
「…必ず取り戻す、それまで待っててくれるか?」


下唇を噛みしめたなまえが一回大きく頷いた。彼女の目には涙が張っている。
今度こそまたねと別れた俺と彼女の行く先は反対方向だった。



いつかまた、彼女が彼女でいられますように。
そして俺と彼女が再び――。





―――

これはきっと、違う世界




14.01.22


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