あの空を見上げて



その日、私はどうしようもなく苛立っていた。些細なことが気に障り、全てが嫌になる。
原因は簡単。終わらない仕事の案件のせい。会議ではどんなに話してもいっこうに自体が収拾するとは思えなかった。みんながみんな自分の意見を通そうと思って意地になっている。かく言う私も、なのだが。
そもそも答えを一つにすること自体無理なのだ。「十人十色」で十人いれば十この答えが出てくるに決まっている。それが分かった上で答えを強引に一致させようとしているのだから、呆れたとしか言いようがない。まったくもって一体どうすれば良いのだか。
そして時間がたつにつれて、空気が淀んでいくのが分かった。
それも当たり前のことで、進まない議題に自然と意見は出難くなる。要するに、煮詰まってしまったのだ。こうなるともうどうしようもない。
ため息をついてしまうくらい本当に嫌になる。

会議が終わったにも関わらず、いらつきはなくならない。このままではきっと近くにいる部下に八つ当たりをしてしまうに違いない。そんなつまらないことで人間関係を歪めるのは私としてもやぶさかではない。
だから私は外に出た。何かから逃げるようにして。



*
外に出たは良いが行くあてがある訳でもない。それに気分だって晴れもしない。
「……はぁ」
大きな溜め息を一つ。全てがどうでも良くなってやるせない。もうどうにでもなれと言うものだ。何が起こったって私の預かり知ることではない。
そんなことを悶々と考えていたときだった。
びゅっと鋭い風が通り抜けた。
「あっ」
風に煽られてかぶっていた帽子が浮かび上がる。このままでは帽子がさらわれる。
「もうっ……!」
飛んだ帽子を取ろうと空に手を伸ばす。そしてその拍子に空を見上げた。
視界いっぱいに広がったのは、それは見事な天色の空だった。一点も曇りのない空は、思っていた以上に大きくて美しい。
「……」
私は言葉もなく、ただただそこに立ち尽くす。こんなにも空は凄いものだったなんて。
その空は、私の気持ちを和らげた。
そういえば朝、家を出るときに今日は晴れだと言っていたことを思い出した。
「戻ろう」
私は会社に戻る。まだほんの少しだけ、燻る心を抱えながら。
そんな、ある日の昼下がり。



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