三月うさぎにご注意!
「小さくて幼くて可愛い可愛い僕のアリス。 何時まで僕から逃げ続けるんですか。もう君は僕から逃げられないんですよ。 君は本当に何も知らないんですね。 この際だから、僕が三月うさぎと呼ばれる理由を教えてあげますよ。 うさぎってね、丁度三月辺りに狂うんです。発情期を迎えてね。 君が僕のことをただのおかしな奴とか、狂った奴としか認識していないようだけれどもそれは違います。 ただの狂ってる奴ってだけじゃないんですよ。 ねぇアリス、目を反らさないで僕をきちんと見て―」
気になって見ていたのに見つかって以来、ずっとずっと逃げ続けてきたのに後ろは壁、顔の両脇には三月うさぎの手があってとうとう逃げるところが無くなってしまった。 見ないように見ないようにと意識して俯いてたのに、彼に言われてちらりと顔を上げれば彼の顔が思った以上に近くにあって心臓がドキリと跳ねる。
赤く光るルビーの様な瞳。 長い睫毛。 それに整った顔立ち。 風に揺られて髪が微かになびく。
そこには素直に綺麗だと思ってしまった自分がいた。 彼は瞬きもせず射るようにして私を見つめていて、私も目を反らすことなんて出来なかった。 まるでこれじゃ私がうさぎで、あなたはうさぎじゃなくて肉食獣だと思った。 そう、いつだってうさぎは捕食される側なのだ。 逃げられない、逃げるなんて不可能だ、と本能的に察する。
「ちょ、ちょっと顔が近いわよ。もう少し離れて…」
絞り上げるようにして発した声は思っていたよりも数倍小さく、風に紛れて消える。 端正な彼の顔がもっと近付いてきて、頬の辺りに吐息がかかる。 その部分だけ妙にむず痒い。 視界いっぱいに顔の顔が広がる事は無くなった代わりに耳元がくすぐったくなって彼の香りが私を捉える。 きっと今自分の顔は真っ赤に熟れた林檎のようなんだろうと容易に予想がつく。
「は、離れてよ」
ともう一度言えば今度はきちんと聞こえたようだった。 どことなく低めの声でぼそぼそと聞こえ、脳髄まで電流が走ったように痺れる。
「お願いだから耳元で喋らないで。離れて…。」 「いくらアリスのお願いでもそれは聞けません。 それに離れません。もう離しません」
という否定の言葉。嬉しそうにくつくつと喉を鳴らして笑い、体ごと密着させる。 手が首に周ったので、身をよじって逃げようとするが、強く抱きしめられて身じろぎすら出来なくなる。 体が暑くほてり、熱があるみたいだ。心臓がまるで全力疾走をしたみたいに早鐘をうっているこの音が、密着している彼に聞こえてしまいそうで不安で、同時に恥ずかしくもあった。
恥ずかしくて心臓とまってよ、なんて思っても実際は鼓動が早まるばかりで体が言うことを聞かない。自分が自分じゃないみたい。 この人、苦手だったのにどうして自分は抱きしめられてドキドキしているのだろうか。
風呂に入りすぎてのぼせてしまったような感覚で、頭に血が上ってまともなことが考えられなくなったみたいだ。 そのわりどこか片隅では随分と他人事の様に考える自分がいる。 自分の事なのに二つの感情が入り混じり、離れてよく分からなくなる。
「僕はアリスが大好きですけれど、アリスは僕の事が好きですか」 相変わらず耳元で喋る。 好きが5、嫌いが3。だから5-3で2好き、なんて気持ちが出れば良いのに生憎気持ちは四則計算なんかでは出ない。
「…分からないわ。好きでもあるけど嫌いでもある」
煮え切らない返事をすれば少し苛々した様子で 「ねぇアリス、」 と彼は言う。
「僕はどうしようもなく君が好きなんです。どうしたら僕のものになってくれるんですか?」 「…そ、そんな事今言われても困るわ。どうすればいいか私には分からない」
ふわりと香る彼の匂い。始めに抱いていた嫌と気持ちは果たしてどこに行ったのか。 勿論全面的に好きな訳でも嫌いな訳でも無いけれど、それでも10全部嫌という訳では無い自分の気持ちが分からない。
「アリス、こっちを…僕を見て」 さすような視線と自分の視線が重なり、顔が近づく。 私とて、彼がこの後しようとしていることが分からぬほど子供では無い。…と思う。 心臓はまだ鼓動を早めると言うのにやっぱり頭では冷静だった。 仕方ないな、なんて思いながらもう一度彼を見る。
次の瞬間視界いっぱいに広がるルビー色。 一度目は鳥達が啄むようなキスですぐに離れるが、二度目はずっと私の唇の上に居座り続ける。 私は少し息苦しいな、なんて頭のどこか片隅で思いながらも大人しく目を閉じた。
三月うさぎにご注意
――――――――――――――― 熱があるのは私です。 なかなか下がりません。 日頃の行いが悪いからですよね。 知ってます。
それはそうとこんな甘ったるい(?)のを書くの始めてです。 いやはや妄想って楽しいよね☆
きっと恥ずかしくて何時か消すか書き直すかします。
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