イタリア旅記
高校に上がって一度目の夏休暇が訪れようとしていた時だった。 偉大なる大家庭教師様が思い出したようにどこぞの電車会社の宣伝よろしく 「そうだ、明後日からイタリア行くぞ」 なんて言ったのは。 イタリア旅記 それを聞いた後が大変だった。なにせ期間は一週間。 参加メンバーは大家庭教師様と守護者全員である。 群れることが嫌いな雲の守護者は参加したがらないのではと言う考えもあった。 しかし、その事を本人に確認の為に応接室に聞きに行けば、――相変わらず彼は高校でも風紀委員成るものやっている――ふん、と一瞬鼻で笑われた後、 「聞けばあの赤ん坊も行くし、イタリアにはディーノもいる。沢山戦えるじゃないか。」 そんな事を言いながら愛用の武器であるトンファーを磨き、滅多にしないようなうっとりとした表情をしていたのをこの目でしかと見た。 対象が自分で無かったから良いようなものの、背筋が凍ると言うのはまさしくこのことかというのを身を持って知った瞬間だった。 それと同時にイタリアにいる兄貴分を哀れんだ。 また、なかなか姿を表さない霧の守護者も今回参加である。 つまり器となっているクローム髑髏も参加だ。 クロームが行くにあたり黒曜組の犬や千種にきちんと知らせに行った。 その時、野郎共の中にいくら幻術を使えても女子一人を連れて行くのだから反対を、反対とまでもいかなくても多少なりとも渋られるのかと思えばそうでもなく、 「お土産頼んだよ」 と一言言われただけだった。 霧の守護者の本体である骸には、伝えようと思えば方法はあったが色々と面倒臭かったので伝えるのは辞めた。 そもそも骸の事である。クロームを通して知るすべがあるのかも知れない。 そんな感じで事は進み、明日出発という段階にまでこぎつけた。 オレの荷物は思っていたよりも少なく、寧ろランボのお菓子等の方が量が多かったくらいだ。 考えてみればこのメンバーで何か起こらない訳が無い。 そしてオレの苦労がまた増えるのか。 そう思うと胃が痛む予感がし、一週間分と予備で2日間分の胃薬を手持ちのバックの一番上に追加で入れたのだった。 超直感が働かずとも面倒事が起こるのが分かるのも何とも言えない。 酸っぱい顔をしていたのを見られたのか、リボーンはなるよーになるぞ、とオレに告げたのだった。 * どうやら将来の為に一度イタリアに来てみないかとの九代目からお誘いが昔からあったらしい。 らしい、と言うのはオレ自信は知らないからであり、話を聞いたのは大家庭教師様だからである。 オレは高校に入りボスになるため、ある程度の勉強と護身術を学んだ。勿論イタリア語もだ。 そのおかげだろう、日常会話程度なら話せる様になった。 と言ってもイタリアに言って何かをするためにはまだまだ勉強が足りないレベルだが。 因みに教鞭をとったのはリボーンと先輩である雲雀さんで、獄寺くんと山本と一緒に学んだ。 が、教育方法は教師陣を見て分かるように非常にスパルタである。一問間違える事に一回殴られるなんて当たり前。 もっと酷い時もあった。 これに関しては色々とエピソードのような伝説もあったりするのだが、今回は割愛だ。 まぁなにはともあれ、無事に飛行機はイタリアに向けて出発した。 飛行機の席決めや、空港に行くまでに雲雀さんがオレ達と一緒の公共の交通機関を利用する、しないで一悶着もあったりした。
群れないのは彼のポリシーで、これだけは譲れないらしく公共の交通機関の利用をしようとしなかった。 だが、利用しなければ空港には行く事が出来ないため、リボーンの、
「車の上にいるなら群れないことになるよな」
とぼそりと下を向きながら呟いた言葉を彼は聞いたのかどうかは知らないが、オレの前から暫く姿を消した。
いくら雲雀さんが群れるのが嫌だからといっても流石にそんな真似はしないだろうと思い、実際に見に行こうかと思ったが、なんとなく辞めた。 これも超直感の成せる技か。
空港に着き、暫くすると雲雀さんと会うと何やら髪が崩れて、葉っぱが体の至る所についていた。 髪の崩れ具合は例えるならそう、強風に吹かれたと言う感じ。
因みに何時も雲雀さんの肩についているヒバードは今、オレの手元にいる。 と言うのも車を走らせている間に空けていた窓からすっと入って来たからだった。
そういえば今日は直撃では無いものの季節に合わない台風 が来たとかで、テレビが騒いでいたのを思い出した。 嫌な予感がし、冷や汗がつっと頬の辺りを流れたが、オレはその事について何も言わないことにした。 それが一番正しいと思ったから。
席決めに関しては、ある意味一番面倒臭かった。 くじを引いたら、雲雀さんがランボの隣になったり、獄寺くんが山本の隣になったりして、明らかになってはいけないペアになったりした。 これはどう考えても、イタリアに着く前に飛行機が別の理由で着陸することになるだろう。
結果、オレがランボと、雲雀さんはクロームと、獄寺くんが良平さんと、山本とリボーンと言う組み合わせになった。 オレはランボの面倒を見て、雲雀さんは必要以上に群れたり喋ったりしないクロームの隣。
ここまでの組み合わせはオレが勝手に決めた。 一番厄介なランボをどうするのか。 雲雀さんは誰と一緒に座らせれば問題が起こらないのか。
悩んだ末にこうなった。
因みに獄寺くんと良平さん、リボーンと山本のペアはきちんとくじできめた。
なかなか上手くいったのではないかと思った。 そしてこれが一番問題が無さそうな組み合わせに見えた。
というか正直雲雀さんやランボがいるのに何故人数分しか座席を取らなかったのかが疑問だ。 ボンゴレなんて所謂多くが裏金で回っているのだ。 どうせならこういう所で使ってほしいと思うのである。
日本を離陸してから数時間後、イタリアに到着するまで丁度折り返しくらいになった所だっただろうか。
「あっ…」
クロームがいきなり目を見開き両手で頭を抑え始めたのだ。 どうも頭痛もするらしく、痛みでか顔は真っ青だで、汗もかいている。
「君…」
雲雀さんもクロームの事態に気が付き、彼なりの気遣いなのだろう、背中をさすりながらどうしたものかとしてオレ見た。
「クローム!?」
オレが声を掛けた時だった。 クロームの席一帯の空気が冷え、霧が現れる。現れた霧はどんどんと濃くなる。 ふと後ろを見ればリボーンは緊張した面持ちて銃を手にして構えている。 山本や獄寺くん、良平さんはどうやらまだ気がついていないようだ。
オレとクロームの距離は通路を挟んでいるが僅か2m程なのに、今やクロームはおろか、クロームの向こう側にいる雲雀さんも見えない。そんな霧の濃さだった。
そして、ぽっと極小ではあるが、霧の炎が灯る。 その後、霧の炎はどんどん増殖し始める。 しまいにはクロームの回りが霧の炎で覆われる。
雲雀さんは自分の横で何が起こっているのか理解できずにいるようで、クロームをさすっていた手を引っ込めている。
だが、 理解出来ないのはオレもだ。
「十代目!!」 「大丈夫か、ツナ!!!」
ここで気が付いた山本と獄寺くんはそれぞれ竹刀とダイナマイトを手にしている。 この間にもクロームを包む霧の炎は増すばかりだ。
緊張が、張り詰める。 と、霧の炎が消える。 また、霧も晴れる。
「クフフ…お久しぶりですね、皆さん。 おっとアルコバレーノ、危害を加える気は無いので銃を下ろして頂きたい」 「骸…」
対応は各々で異なり、山本は刀を少し下ろし、獄寺くんはダイナマイトを下ろしたもののまだ手にし、オレの前に来た。 骸からオレを守ろうとしているのだろう。 リボーンはリボーンで銃を下ろしている。と言うことは大丈夫なのだろうか。
さて、一番動作の大きい雲雀さんはと言うと、クフフと声が聞こえた時点でトンファーを手にして席を立ち上がっていた。戦う気満々なのである。
実際、この骸が本物の骸ならば戦っていただろう。 しかし様相は骸と言えどもその実、器となっている肉体はクロームなのである。 今現在は骸が憑依しているから傷付くのは骸だが、憑依するのをやめればその傷は全てクロームに移る。結果的に傷付くのはクロームなのだ。
それにリボーンに徹底的にフェミニスト道を叩き込まれたオレ達はクローム、というより女性を殴るなんてとんでもない、という考えなのである。まぁ一部例外を除くが。
雲雀さんも元はクロームだということを思い出したのかは知らないが、トンファーを取り出したまま動かなかった。
「今更のこのこ出て来て何なの?君」 「おや雲雀くんでしたか。気がつきませんでしたよ」
顔は笑っているが、互いに隠そうともしない嫌悪感が滲み出ている。
「良いんですか?僕を攻撃しないで」 「そんなに攻撃して欲しいのかい。じゃあお望み通りしてあげるよ!」
雲雀さんは言うが早いが、トンファーを振り上げ、移動していた。 一方骸も攻撃上等!とばかりに何処からともなく出した槍を構えている。 が、オレは止めに入る。
「攻撃しちゃ駄目だ雲雀さん!! ここは飛行機の中だ!!それに骸も雲雀さんを挑発するのはやめるんだ!! 骸、クロームに憑依してまでオレに何を言おうとしてるんだ。重要な事なんだろ?」
雲雀さんはしぶしぶ、という様子でトンファーをしまい、骸は相変わらず不遜な笑みを隠さない。
「冗談はこれくらいにしますかね。じゃあ本題に入りましょうか。 警告、ですよ。今回僕がこんな事をしたのは」
ぴくり、とリボーンが僅かに表情を変え、眉をしかめる。
「警告?骸がか?禁止では無くて?」 「はい、警告です。今イタリアではとあるファミリーがボンゴレに攻撃を仕掛けています。それの警告です。」 「その情報はガセで無いと言えるのか? お前は守護者と言う立場ではあるが、ボンゴレには関わらない。寧ろ裏切る事だって考えられる。 お前がオレに真実を伝えるメリットは無いはずだ」 「そうですね。君の言っていることは全部事実だ。メリットも無いですしね。 強いて言うなら…興が湧いた、と言う感じでしょうか。それだけですよ。 では伝えたいことも伝えたので僕はお暇するとしましょうか。 気が向いたら戦いましょうか雲雀くん。では…Arrivederci」 「待て!骸!」
オレが必死に引き止めようと呼び掛けても骸は何も答えず、再び霧が発生した。 もう何かを話そうと言う意思は無いらしい。 そして現れる時よりも幾分か早いスピードで炎が増殖し、やがて骸は消えた。まるで何事も無かったかのように。
霧が晴れた後、そこにいたのは髑髏だけだった。 相変わらず引き際は早い。
「君、大丈夫かい。……眠ってる……」
クロームがぴくりともしないので雲雀さんは声を掛けたらしい。 が、眠っていると分かり一安心した。 山本や獄寺くんも声に出してはいなかったがクロームが心配だったようだ。 身に異常が無いと分かり安堵の表情を浮かべていた。
が、ただ一人リボーンだけは反応が違っていた。 なんと言えば良いのだろうか。 憎々しげな顔をしていた、と言う感じだろうか。だが、怒っているというわけでもなさそうである。 なんとも言えぬ表情をしているのである。
とにかくよくやった、等の称賛や賛辞を送っていないのは確かである。 と言っても他の人には分からないような微妙な表情の変化。事実、リボーンを見てもそのことを誰も指摘しない。 他の人には恐らくいつものポーカーフェースを貫いているようにしか見えていないだろう。
いつものリボーンと別段変わったことがある訳では無いが、なにかが引っ掛かった。 何が変なのかはよく分からないが違和感を感じたのである。 超直感と呼べるほどではないただの勘。
「リボーン?」
そんな顔してどうしたの?何かあった?と続ける前に
「おいダメツナ!あれが骸だったから良いようなものの、気がつくのが遅すぎだ!」 「……」
そう遮られた。 が、リボーンの言うことは事実なので何も言い返すことが出来ない。 オレは今相当苦い顔をしている事だろう。
「えと…。もう少し精進します…」 「全くだ」
リボーンは吐き捨てる。 と、機内案内が入る。
「間もなくイタリア本土へ着陸致します。お客様各位、シートベルトをきちんとお締め下さいませ。もう一度申し上げます。間もなく……」 「チッ」
リボーンはまだ文句が言い足りなさそうだったが、案内が入ったため諦めて舌打ちをしてから口を閉じた。 だがしかしこの調子なら着陸してから幾分か小言を言われる事だろう。
そんなこんなで、少々の不安を感じながらもオレ達はイタリアに着いたのだった。
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思ったより長くなった…。 気が向いたら続き書きます。きっとね。
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