いぬぼく/蝉 夏目



この忌まわしい記憶は消えてくれないらしい。
この手のひらを見て、また失敗したことを悟った。

また、駄目だった。
自分が転生する前からなんとなくこうなるような気がしていた。
それは今までのありがたくもない経験で学んだことだった。
周りにいる先祖返り達はみな記憶を継承できずに転生したらしい。

ボクはまた一人、だ。



前世、と言えば不思議な感じがするけれど、結局それは僕らからしてみれば今まである記憶の続きに過ぎない訳で。
スタートとゴールが一緒なゲーム。
何度も何度も同じことを繰り返してその度にコンテニューをする。まるで僕らは運命という盤上にいるゲームのキャラクターのようで、滑稽だ。
だとしたらボクらを動かしているプライヤーは一体誰なのだろう。何を目的に、こんなにも繰り返すのか。このゲームにゴールはあるのだろうか。

無力だ、と思う。こうして全てを見透かす目を持っていても、出来ることは何も無くてもどかしい。ボクが動いたところで、運命は変わらない。
りりたんやそーたん、カルタたんみたいに、戦える力があればこの状況を動かすことが出来るのだろうか。このループから抜け出せるだろうか。
なんて、ただのないものねだりだ。

蝉は七年間を土の中ですごし、地上にでていられるのは僅か一週間。
その一週間を命の限り叫びを上げて、そして死ぬ。
ボクは蝉だ、と最近思うようになった。
ボクは蝉のように虚しく残りの夏を生きるのだ。最後を知りながらも死に向かって生きるしかない。出来ることは何も無いまま、歴史の歯車として存在するだけ。

だけどそれがボクの名前の、意味、なのかも知れない。
夏目残夏。
残りの夏を生きる蝉なのだから。






12.0209



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